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エロゲ転生、魔族をぶっとばしてやるで

 声があった方に全力で駆け付けるとそれはもうやばいところだった。

 『モニター越しに何度もお世話をしてやった』ことのある、紫髪のかえでと似た色の肌に変色した長躯の身体と自身の証明ともなる金色の魔族と、足蹴にされているクリーム髪の少年と、絶望して助けを求める少女と同じ髪と顔立ちの少女がいた。

(つまりは先ほど悲鳴を上げたのは少女の方だろうか? いや、それよりも…アレはまずい!)

 瘴気に触れたら朽ち果てかねないほどの重症を負ってしまうだろうし、あの小さな身体で耐えられるかはかなり危ういな。

 そして少女は『誰か』に助けを求めてきた。それに応えられるのは…俺しかない。

「おう、呼んだか、なっ!!」

 しゃむにむ、思考をすべて放棄して全力のタックルを自分の背丈より倍以上もある魔族におみまいする。

 ドスッ、という鈍い音と肩に鈍い痛みが襲いつつも、振り下ろされた鋭い爪が少年の命を奪うことだけは免れた。

「ふぅ…ふぅ…。きみは…大丈夫か?」

 身体が魔族を怖がってはいるものの、何とか間一髪を避けられたことに安心した。

「あ、わ、私…は大丈夫……でも血が流れてますっっ!!」

「んぁ?」

 足元にいる少年は背中をざっくりと引き裂かれているため、はやく治療をしないといけないが、それだけでも行幸、不幸中の幸いだろう、引き換えに右腕はすごく痛い。

 どうやらど突いた時に爪が当たってしまったのだろう、服を通り越して肌を薄く切り裂かれていた。

 血はダラダラと流れてきている、言われるまでは全く分からなかったしなかったのに…正直めちゃくちゃ痛い、というか叫びたい。

「………」

 でも…やっぱダメだろ? ここで叫ぶのは絶対にナンセンスだ。なんでかって?

「ハハッ! これくらいどうってことないぜ?」

 目の前にいる女の子が、心配そうに見てるのに、これ以上かっこ悪いところとか見せられない。

 できうる限りの笑顔で痛みなんてないって、笑ってやる。この子には余計な心配はさせない、だからこの痛みだけは、気合で抑え込む。

「それよりも…こっちの子は大丈夫? 知り合い?」

「あっ、瑛士兄!」

 少女の関心を向けるがやっぱりというか、なんというべきか。女の子が「瑛士」と叫んだ時点で違和感が確信に変わる。

 何度も見たことがある魔族と、何度も助けて助けられた少女、そして幾度となく自分たちを世界の平和と幸せ(ハッピーエンド)まで導いた少年。

 すべては自分が知る存在だった。

 いわばあの世界における、もう一人の自分。

「ウググ……!!! キさま…ユルさン!!!!」

 確認しようと近寄るも、不意打ちの捨て身タックルはそこまで時間を稼げないようで、のどが潰れて微かに聞こえるおぞましい声を発しながら今度は踏み込んで爪を振り下ろす魔族の姿が見えた。

 しかし、この魔族パターンは頭が覚えている。よく繰り出してくる『爪を振り下ろす』攻撃、モーションだけでいえば上から振り下ろすだけではあるが、ゲーム時には「上から」「掬い上げ」「突き」の3パターン。終盤につれてはそこから3パターン増えることになる。もちろん、それぞれ威力と効果は異なってくる。

「きゃぁぁっ!!」

「させるかぁっ!」

 痛みを訴える身体に鞭を打ち、少女と魔族の間に立つ。生憎と武器は「身体」だけである。付け焼刃の格闘術なんて都合のいいものなんてない。

 でも立ち上がるしかないのは、二人をまもるため、ひいては「最悪のシナリオ」を避けるためである。

 それならば……。

「【身体強化(ブースト)】ッッッ」

 自分たちが生き残り、かつ、魔族を追い払える一撃を与えるしかない。

 【身体強化(ブースト)】は一定時間ではあるが、使用者の身体を、常人をはるかに超える肉体へ変化させる魔法である。まだ完成したばかりであるため、最長でも10秒という一般的・・・に見ればロクに扱えもしていない最低限発動できたレベルの魔法ではあるが、このピンチを切り抜けるための生命線であり、諸刃の剣ではあり、今使える俺の切り札である。

 この世界にきてすぐに覚えられた魔法の一つで、攻撃に関する魔法はまだ唱えられず、発動も満足に行えない。だが、これで充分である。

 膂力の差は魔法ブーストで補い、反射神経もわずかながら強化されているため振り下ろした右手を掴んで握り締める。

「コシャクナァァァァァ!!」

 すかさず左手引いて「突き」の体制に移った。が、それをも超える速さで渾身をお見舞いする。

「ハァッ!」

 気合一閃、ブーストが切れる直前の全力の左ストレートを人間とは思えない、紫に変色している土手っ腹に叩き込んだ。

「カッ! グハァッ!!!」

 グニャリと肉を叩いた感触と共に、拳から繰り出された衝撃が骨を通して魔族の腹部を襲い、吐血させ、そして数メートルほど吹き飛ばされる。

 魔族に深くないダメージ(ほぼ致命傷)を与えたが、その代償は少なくない。

(ッ! ぐぅぅぅっっ!!!)

 【身体強化(ブースト)】の効力が切れた瞬間、腕が紫に変色するほどに腫れあがる。そして運の悪いことに、魔族の吐血先は主に左腕であったため、返り血を浴びた場所から肉が焼ける音がと、骨が砕ける音、そして何かが蝕むような、吐き気を催す感覚が襲った。

「カッ! あああぁあぁぁあぁあぁぁあぁあぁぁぁあぁあ!!!!!」

 叫ばずにはいられない。無意識的にこれ以上侵蝕されないように左肩を抑えた。意識が朦朧としてきている。気も目も耳も遠くなり、後ろからの声もほとんど聞こえなくなりつつある。

「倒れて……たまるかぁぁぁぁっ!!」

 ここで倒れたら消えてしまうのだ、それだけは、なんとしても避ける。二度目の世界でいきなり死ぬのだけは御免だ。それならばこの瞬間は、立ち続けてなければならない。

 しかし、緊張の糸はそこで途切れる。

 ジュゥゥゥ! という焼けた音とともに魔族がその場で溶けて消えたからだ。それを見えて戦いが終わったのだと身体が知り、緊張の糸がほどけてその場に膝から崩れる。荒い呼吸を整えて少しでも体に力を入れようとして……目の端にきらりと光るものを捉えた。

(あれは……魔族の角……)

 顔をあげて光った方を見る。そこにはぐずぐずに溶けて消え去った後ではあるが、魔族がいたであろう場所に、魔族の証である金色の角が落ち(ドロップし)ていた。しかし……。

(角が…小さい…?)

 つまり…アレは最下級の魔族でしかない、と? そんな嫌な予感が全身をグルグルと駆け巡る。その予感はずっと消えてなくならない。

「おばかぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!」

 と、ふらふらになって少女が歩み寄ってきたため、思考が逸れる。足取りがおぼつかないため、支え寄ろうと近づ、けずに立ち上がれないまま少女からのタックルを腹から受け止める形になってしまう。

「カフッ!」

「大丈夫ですかっ!? というかなんで立ち向かったんですか! おバカなんですかぁっ! 死にたいんですかぁっ……えぐっ、ぐすっ……」

 近寄ってきたと思ったら少女がお腹に抱き着きながら頭をぐりぐりとこすり付けて泣いている。俺への致命傷ではないが、着々と痛みに響いているため、もちろん現在進行形で意識は遠のいていった。

 大丈夫…だから離れて と言いたかったが、声はもう届かない、というか声を出す気力すらないのだ。腹に抱き着いている幼女からの罵倒は止まらない。

 気持ちだけでもホールドアップして途方にくれていると、遠くから神の啓示、もとい、助けに来る声が聞こえてきた。

「優月様! 優月様ぁぁぁっ!!!」

(はは……おせぇ、よ……)

 コンディション最悪、負傷者は二人、うち一人は気絶という結果ではあるが、奮闘した結果でこれならば上々だ。

 遠くから駆けつけてきたメイド服の少女(かえで)と身内の大人たちの姿が目に映り、最悪のシナリオを避けられた達成感と安心感に包まれ、俺は悪態だけついて、また気を失った。




 ―――……まったく…これだから……。また、シナリオを書き直ししないと…。


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