エロゲ転生、命じられたのは…?
「よう生きておったのぉ問題児」
「第一声がそれかよクソババア」
来いと言われた先で迎えられたのは理事長からの罵声だった。
おかしいなぁ?
「で、身体はどうなのかぇ?」
「おかげさまで。3か月も寝たきりらしいから、完全に回復してると思いますけど」
「それはよかったの」
聞いておいて他人事だな理事長。そして肩までの短い黒髪な制服を纏う美女がそばまで寄ってきて足元で傅く。
「無事でよかった、八重乃みやびさん」
「とんでもない。すべてはあなたのおかげですよ、優月」
八重乃みやび。ユーザーの前に立ちはだかる第一の壁「赫灼刹騎ヤーバルハ」、別名は魔王軍幹部とも言う彼女。かえでが助けた後からは特に反応を示していなかったから生きてはいるんだろうと思っていたけど、五体満足な姿を見られて少し安心した。
幹部の時と人間の時で変わらない姿なんだな。まぁこの時代の人間で知ってるものはほとんどいないし問題ないか。
「まぁ抑えるためと言ってもろとも爆発させたのは…」
「仕方のない事です。無事人間に戻れたのですから解決としましょう」
「…八重乃さんがそう言うなら」
「あと今更私に敬語は不要です。あの時みたいに躊躇いなく生意気な口調でお願いします」
「いや流石にそれは…」
抵抗があるぞ? というかそう思ってたのあなた? 確かにあの時は魔族の瘴気があったから引っ張られてた感覚で喋ってたけど。それにユーフェウスとヤーバルハならともかく、優月と八重乃みやびでは人生経験含めたもろもろが違いすぎる。
「恩人に敬われると私の立つ瀬がありません」
「そうですよ優月様。それにあなたはもう…」
「まてかえで。それ以上はわしから説明する」
「…チッ」
とりあえずかえでが理事長に良い感情を持ってないのはよくわかった。
「わかったよみやび、これでいいか?」
「えぇ構いません。これで少し楽になりました」
「それじゃ、わしから話をするけど、よいな? 凛堂優月よ」
「もちろんです。いろいろ説明をお願いできると助かります」
心構えを取らせてくれたようだ。理事長が咳を入れてからしゃべりだす。
「お主の停学期間はすでに開けておるからな。明日からは学園に通うことになるはずじゃった」
え、過去形なの?
「そうじゃ。今のお主の立場が難しいものになったからの」
「え、俺何かやっちゃいました?」
「殺すぞガキが」
え、すみません? 理事長からストレートな殺意が飛んできたから反射的に謝っちゃったよ。
「いやいや! なんで立場とかでてくるんですか!? 俺何もしてないじゃないですか!」
「お主は実にバカじゃのぉ」
「殺すぞババア」
え、お前がキレるの? 理事長からのストレートな罵倒が飛んできたからかえでが我慢できずキレちゃったよ。
「かえでごめん、流石に説明がほしい」
「かしこまりました。一番の問題は八重乃みやびが生存している、という事実です。優月様はご存じないかもしれませんが、八重乃みやびは元々秘匿された存在。魔族の血を浴びて生き残った唯一の人間だったのですが」
「それをどういう手を使ったか、魔族の血を浴びた堕ちかけた存在が人間として生還することができたのです」
「で、それを果たしたのがルミナス学園の関係者ということじゃ」
三人から説明をされて以前に直接みやびから聞いたことを思い出した。
「えっと、それと俺がどう結びつくんですか? グレーっちゃグレーですけどまだ俺とは限らないんじゃ?」
「そうじゃな。じゃが魔族の存在を正確に知っているのは1組の特別進学科のみ。そして1組にはほぼ全員アリバイがあったから不可能と思われたんじゃが、都合よく『停学』で行動が可能な存在がいたと」
「それが俺で? でもそれだけじゃ断定できないですよね?」
言い逃れに近いかもしれないけど、それこそ誰かがぽろっと漏らさない限りは俺と確定できないんじゃないの?
しかし隣に立っていたみやびがさっと顔を逸らした。
「みやび?」
「えっと…申し訳ありません、優月」
「…もしかして?」
「お主の考えたとおりじゃ。秘匿するべき存在から公に名前をだしてしもうての」
「浅慮の極み…」
「まぁそれはいいでしょう。今はこれからの話をしましょう」
「む、そうじゃな。いざこざはもう全部解決しておるしの」
そうなの? さすが時空魔法。3か月の時飛ばしは伊達じゃない。
「えっと、それなら俺はこれからどうすればいいんですかね?」
「そうさな、言っておくがわしは今でも反対じゃし、間違っても首を縦に振ってはおらんからな。そこだけは理解しておくようにの」
とりあえずうなずいておくが、理事長として学園の立場上って話?
「優月は『ダイタロスダンジョン』を聞いたことがあるかの?」
「そりゃ知ってますけど」
いつかは挑戦したいけど絶対に突撃したくないダンジョンですが? え、このタイミングでそれ聞くの? 実質答え一つじゃん。
「え、嘘ですよね?」
「じゃから言っておるだろう。わしは反対しておると」
「私も反対です。優月様が危険な目に合うのは承服しかねます」
「そうじゃな。わしとかえでは反対しておるんじゃが…」
「私は賛成です。私と優月、かえでが居れば問題はありません。可能ならそこに勇者さんも欲しいですが、実力次第でしょうか」
隣のポン美女がキリっとした顔で答えるが、元凶キミやで? 口にはしないけど。
「なるほどなぁ…」
確かにその4人なら問題ない気がする。俺がどこまで戦えるかが問題だけど、それがクリアなら前衛みやびと瑛士で中後衛に俺とかえでが居れば77階層は攻略も不可能じゃないと思う。
ダンジョン知識でチートすれば…いや、魔族の二人ならともかく瑛士に知られるのはだめだな。
「条件付きなら賛成ってところで」
「優月様!?」
「ふむ…」
目を大きく見開いて驚くかえでと表情を変えずに口に手を当てて思考する理事長。耳のほうはピクリと少し動いたので少しは驚いているんだろうか。
「まずダイタロスダンジョンにいかなきゃいけない理由を聞かせてほしいです」
「そうさな…。かえで、怒るじゃないぞ」
「……」
また不機嫌そうな顔に戻ったが、そんなに理不尽な命令なん? 愛が重いのはいつもだとしても流石にかえでも許容ができないくらいの理由なんかね?
「そもこの命令が「八重乃みやび」と魔族を知る上の人物じゃからな。ソレが言うには八重乃みやびが切り札に足りうるか実績を示してほしい、ということじゃ」
はーん、それはそれは。
「ダイタロスダンジョンじゃなくてもよくね? みたいなこと思いますけど」
「そうさね、わしも同じ意見じゃ。しかしお上様はそうじゃないみたいらしい」
「どうせアレですよね。厄介なダンジョンは厄介な人物に踏破してもらって一石二鳥。みやびが生き残れば切り札で対魔王に使えて一石三鳥、ダンジョンの途中で力尽き果てたら悩みの種という厄介者が処分できてなおかつ真相は口の中で一石四鳥、みたいなことでも考えてるんでしょうね」
「ですので優月様が命令をくだされば一刻も早くその者を処分してまいります」
「ステイステイ」
判断が早い、ビンタを張られる前に回答してくれるじゃん。鱗の人も真っ青じゃん。
「報酬とかそこらへんはどうなんです?」
「一部は引き取って残りは自由にして構わない、とのことじゃ。はっきり言って舐めてるのかと言いたいわ!」
理事長大激怒。
「一部って言ってどれくらい持っていくつもりなんですかね?」
「だから上は信用ならないのですよ。ひとの命をなんだと思ってるんでしょう」
全く持ってその通り。しかも死亡率100%のダンジョンにアタックさせる人間がいうセリフじゃねぇわ。それはそれとしてみやび、その問いは魔族になった自分に言ってあげてみ。「知らないわ」って返してくれるはずだよ。たぶんお上も内心同じこと言ってるはずだな。
…つかもしかしてだけど、お上がほしいのって『審判の宝玉』じゃねぇの?
「最奥にあるって言われてる秘宝でもほしいんですかね?」
「おそらくじゃがな。一部で誤魔化したのもそういう話じゃろう」
「クズが…」
ほーら、かえでもん怒髪天。
いやまぁあるけどさ。初攻略初討伐の報酬だから確定ドロップだけど、単体じゃなににも使えないんだが、そこんところわかってるんだろうか? わかってなさそうだな。条件は知ってそう。
とはいえ、だ。
「いつかは挑もうと思ってたけどさぁ…さすがに今は想定外なんよなぁ…」
「その考えがあるだけでもおかしいと思うのじゃがな。じゃが小僧の面倒を見るのもあるから、できるならば回避したいのじゃよ」
理事長はダイタロスよりも魔王優先、まぁこれは当たり前か。
9月なら今からでも魔王をぶっ殺すことはできなくもないけど、アイテムが足りない。せめて魔王に挑む前に『太陽神の宝玉』はほしい。全耐性は不要でも、性能アップは見逃せない。バグ技はリスキーだから止めるけど。
せめて正しいルートで情報解禁される11月までは魔王のことは一旦置いておくとして。バグと最短攻略で挑むなら、1か月攻略は恐らく可能。それができるなら…。
「ダイタロスに挑むのは俺とかえでとみやびの3人、ある程度の準備を整えるから少し時間がほしい」
「三人ですか!?」
「優月、流石にそれはどうかと」
「あと報酬の一部を明確に説明できないなら却下。全部寄越すこと。それとダンジョン内で拾ったアイテムもこっちのもんで、寄贈は学園だけでお上様にはお気持ち分だけ渡す、これが飲めないならこの世界が終わると思え、って感じですかね」
「よく言ったもんじゃの。報酬はこっちで進めておくにしても人数を減らした理由を聞こうかの?」
さすばば。
「単純ですよ。足手まといはいりません」
魔族の力をフル活用するからクラスメイトは誰一人として連れて行かない。バレない対策もあるけど一番は力量不足なのは無理すぎる。死なせたくないのよ。限界突破した力を得るとか、瑛士みたいな勇者補正があるならまだしも、誰も要素はない。そのうえその瑛士は勇者の力が未開化だし、他の奴らもその瑛士に匹敵するレベルなら誰もボスには勝てないよな。
せやな、つまりそういうこと。
「なるほどのぉ。それはどうしようもないことじゃ」
「残念ですがね、俺とかえでは講堂ダンジョンを数時間で突破できますし、みやびに至っては今更説明不要でしょう。みやびが欲しいと言った部分についてはデメリットの方が多すぎるので」
「む。確かに、今の勇者では力が足りていませんね」
「かえでは…悪いな、ついてきてくれ」
「…もちろんでございます。優月様のご命であれば」
みやびはそのまま力量差を伝えれば納得してくれるし、かえでは俺から言えば抑え込んではくれる。あとで埋め合わせしないとな。
「そういうことですから、『ダイタロスダンジョン』に行ってきます」
もう気持ちは魔王よりもダンジョンに向いていた。
「わかった。なら一つだけ聞かせてくれ」
そういって理事長は今まで以上に真面目な顔で問いてくる。
「お主らは、生きて帰ってこれるのじゃな?」
…なんだ、そんなことか。
「当たり前じゃないですか。学園で一番強いのを誰だと思ってるんですか?」
自信満々に答えた。瑛士の兄貴分として、魔王をぶっ殺すまではたかがダンジョンに手こずってる場合じゃねぇんだわ。
あとからかえでに聞いたけど、この時の俺はめちゃくちゃ笑っていたらしい。
さて、自信たっぷりに答えたは良いけど…どうしようか。アタックまでにやることがたくさんあるんだけど。とりあえずあいつらに会いに行くか。




