エロゲ転生、優月の目覚め
ちゃぷちゃぷ、という水の音が聞こえる。
「ん……、ここは……」
「優月様、おはようございます。身体の調子はいかがでしょうか?」
めを開けると見慣れた、まではいかずとも何度も見ていた自分の部屋だった。そしてすぐそばには濡れたタオルをもったかえでが立っている。
「かえでか。悪くないところかめっちゃ調子が良い気がするんだけど」
「それは良かったです」
表情は変わらないけど本当に安心しているようだった。長い付き合いだから雰囲気でわかる、寝てる間もおそらく看病をしてくれてたんだろう。
「サンキューな」
「もったないお言葉です優月様。私は私のしたいことをしているだけですから」
「だとしても、だ。ずっと寝てたんだろ? どれくらい寝てたんだ?」
「ざっと三ヶ月ほど、でしょうか」
「そんなに…。……は?」
三ヶ月!? いやいやちょっと待て!?
「そんなに寝てたのか!?」
「寝てたと申しますか…一般的には急患で運ばれての緊急治療で三ヶ月ですから、」
「え、緊急治療?」
そんな重大なことになってたの? 俺。
服を脱いで身体の傷を確かめると、確かに身体のあちこちに傷が残っていた。縫合跡はおそらく魔法で治せたんだろうけど…問題の左腕にあった焼け跡はもはや隠し通せない程度に左半身を侵食していた。ただし前と違って魔の侵食というよりも火傷の跡に見えなくもないので万が一があっても誤魔化せそうなのはありがたい、といえばいいのか。
「重症も重症、クラスのみなさんもお見舞いに来たがっておりましたが、起きるまでは面会謝絶で通しております」
「本当にやばかったんだな」
ずっと寝てたから記憶がないので他人事。そっか…三ヶ月も経っちゃったのか…。
どうすっかなぁ、六月から三ヶ月なら九月だろ…。もうそろそろ折り返しイベントじゃん。行事もあるしイベントも何が消化されたか知らないし。それにダンジョンもどうなったか気になる。
「なぁかえで。あの後はどうなったんだ?」
「あの後、三ヶ月前のことですね? もちろんご説明をさせて頂きます。ただ…」
歯切れが悪そう、というよりも不機嫌そうに言葉を止めるかえで。何があるんだ?
「ただ…なんだ?」
「いえ、ご説明はしますので、そのあとに私とともに理事長のところに向かって頂いてもよいでしょうか?」
「それは構わんけど」
なぜ理事長のところに? と思ったけど、みやびのことをあいつは知っていることを思い出して納得した。
「とりあえずあの日、俺が意識を失ってからなにがあったんだ?」
「優月様が魔法を爆発させ間近で受けた八重乃さんはそのまま気絶なされました。ただ爆発範囲が広すぎたためか31階はほぼ地盤が崩壊、フロア全域が崩れて生き埋めになる直前で私が30階層の空間に逃げこんで事なきはえられましたが、あの日以降31階層へ降りることはできなくなりました」
「ならアインスト…講堂のダンジョンはどうなった?」
「そちらは変わらず解放されております。ただ爆発の影響もあったので数日は講堂の調査で立ち入りができませんでしたが、地下の存在を秘匿するためか数日で理事長が切り上げさせておりますね」
さすババ。よく調べれば地下に行く道なんて見つけられるし、切り上げる判断が早い。そういえば誰かもストーカーで見つけた気がするな。
「あと1組全員に講堂30階の存在を伝えて一人で攻略できた者から外のダンジョンに挑めることも共有されました」
「あら。伝えられたんだ」
「優月様は知っていたのですか?」
「知ってたと言うか、理事長に直談判したの俺だしな」
「なるほどですね…だからあの時私に一人で攻略するように申し付けたのですか?」
「それもある。けどかえでなら言わずとも一人でできるだろうなって」
「もちろんでございます。優月様の隣に立つのですから、優月様ができることはこなしてみせましょう」
重い重い。
「とはいえ、今のクラスの奴らは攻略できてるんだろうか?」
「30階層への攻略完了は全員達成しておりますが、ひとりとなると…」
少し考え込むかえでもん。
「瑛士さんと龍蔵寺様、クソ忍者の3名でしょうか」
「!?」
口わっるぅ!?
桜色のかわいらしい口からきったねぇ言葉が出るとは思わなかったわ…。…聞かないでおこう。いつかは聞くけど今は絶対触れない。
「ま、まぁその3人か。女性陣がクリアできてないのはちょっと意外っちゃ意外だけどな」
「ひとり、と言うのがハードル高いみたいですよ。青羽様はあともう少しですが、千花さんに関しては優月様が起きられましたのですぐに攻略完了すると」
「……あれか? もしかしてルミナスダンジョンも同じ感じ?」
「そうですね。パフォーマンスが一気に落ちて攻略から外れて頂き、その時間は私と共におりました」
「か…。ありがとうな、気にかけてくれて」
「かまいません、この件に関しては優月様が気になさることではありませんので」
…ん? まぁいいか。
「ほかの男性は…単に相性が悪いだけか。特にヤンキーのほう」
何も言わずうなずくかえで。魔法が使えるならあのダンジョンは特に苦労はしない。晴臣は相性抜群のため経験値効率最高だが逆に物理特化のヤンキーはかなり相性が悪く、それも打撃耐性持ちもかなり多いから打撃攻撃しかもっていないアイツの場合は【身体強化】を使っても攻略難度が高いままなのは必然。
「あとアイツ。お嬢はあれから変わらないの?」
「……あぁ、おりましたね。おそらく変わっていないかと」
一瞬で興味なくしたなコイツ。
「…どうすっかなぁ。強制イベか瑛士にやらせるか…瑛士に任せるか」
どっちにしても強制イベントだからな。がんばれ瑛士。
「ってことはここ三ヶ月は講堂とルミナス両方を攻略してた感じ?」
「理事長の言葉もありましたからね。あとは外のダンジョンも気になるのが数名と言ったところでしょうか」
愛莉栖に晴臣に忍だな。
クリア報酬に用事があるからなあいつらは。まぁ今のままじゃ愛莉栖は論外。頑張りたまえよ。
「あとはみやびか…」
一緒に気絶してたってことなら生きているんだろうけど、魔族の角を取り込んでるから本気で不安の種なんだが、かえでが慌ててないのが気になる。
「それはこの後理事長室で説明いたします」
「ん、了解。それならほかのことは向かいながら聞くわ」
寝巻から着替えるために布団から降りようとして気付く。
「俺三ヶ月寝てたのに、普通に身体動かせるんだな。普通リハビリとか必要なんじゃないの?」
「もちろんでございます。それは後日ご説明させて頂きますので」
「よろしく」
マジで困ったときのかえでもん。それならちゃっちゃと着替えて理事長んとこにいくか。
「あれ? なんか制服ちっちゃくね…?」
「本当ですね。後で新調しておきます」
「すまん。…体操服でも着るか…」
何があったんだ? 異変だ。




