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エロゲ転生、勇者を助けるで

「優月さん、トリップはそこまでにしてください。顔がだらしないです」

 ……言い過ぎた。お嬢様のお小言を頂いてしまった。

「いやだって…」

「はいはい(笑)全能の魔法使いさん」

「ぐぬぬ…」

 無表情で毒舌の紫髪おかっぱ少女は「海空かえで」と言い、この世界でいう「凛堂優月」の幼馴染で許婚らしい。

 許婚と聞いた時は「ひゃっほー!」って思ったが、この少女の名前には聞き覚えがあった。俺がこの世界に転生する前にしていたゲーム、「舞姫❀トラベラーズ」のサブヒロインである。つまりなんだ? 俺はゲームの世界にきちゃったのか? そういうことか?

 いやまぁ…魔法の設定とかめちゃそっくりだったから疑ってはいたけど。

「優月さん、あまり遠くに行かれるとご家族が心配されますよ?」

「まぁまぁ…そう遠くに行くわけじゃないからさ」

 かえではいつも通りにむっすりしている。

 しかし…自分の名前である「凛堂」という名前に見覚えも聞き覚えもない。というか「海空かえで」というヒロインも実はメインではなくサブヒロインである。サブヒロインが許婚という関係がいたという話は、メディアのどこにも載ってないし、ゲームプロデューサーの会見等でもネットの考察組のスレッドでも聞いたこともない。

 そんなヒロインいてたまるか。

 ……まぁ、ヒロイン√での話が不明瞭だから何とも言えないのもある。原作でかえで√のオチは誰もが納得のいかない終わり方をしたため、ファンからは「続編パッチが当てられるまでは史上最低のストーリー」と言われている。

 もちろん続編は鋭意製作中であり、アペンドストーリーも残り1話というところで飛ばされてきたので続きは知らない。もちろんこの世界に「舞姫❀トラベラーズ」というゲームはない。

 製作者様、ファン一同は続編をお待ちしております。そして願わくばこの素晴らしい世界に姫トラを。

「……ところで優月さん? どうして今さらこんなところを歩くのでしょうか?」

 俺が止まることないってわかってるからか、苦言も控えめだが、歩きながらそんな変哲のない質問が飛んできた。

 なんでと言われても困るものなんだけど……。

「いや、なんでもなにも…俺にとってはあんまり馴染みのない町だからね? それに…健康的におさんぽするのも悪くはないよ」

「……さようでございますか…」

 それ以降彼女は口をつぐんだ。

 ……質問の意図はなんだったのだろうか? そんな思考もすぐに放棄する。考える意味もないからだ。そして10分くらい歩いただろうか。

「あ、優月さん、そちらは……」

 かえでからストップがかかった。

「えっと…? この先に何かあるの?」

「あ、いえ、なにかあるわけじゃないですが……その…嫌な予感といいますか…不穏な気配を感じましたので……」

「ふーん…? かえでが言うならそうなんだろうね」

 彼女の勘は鋭い。的確に助言を呈することもあり、助けられたこともなんどかあったりした。

 それに…もうそろそろ門限も近い。

「……うん、それじゃ今日はもう――――――」

「きゃぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「「!?」」

 帰ろうとしたところで声が聞こえた。それは幼い女の子が悲鳴をあげたときの声だ。

「っちっ! かえで! お前は先に屋敷に戻りつつこの悲鳴を誰かに通報してくれ」

「優月さん!? あなたはどちらに!」

 慌てて駆け出す俺をかえでは静止させようとするがもう遅い。

「そんなの、助けに行くに決まってるだろっ!!」

 彼女が何かをする前に俺は身体強化を使ってトップギアを入れる。そしてその場に文字通り彼女をこの場に置き去りにするようにこの場から駆け出した。



「きゃぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 少し前まで自分たちは親に頼まれた夜飯の買いものをしていたところだった。

 しかし何があったのかわからず、自分の兄が後ろにきたと思ったら直後に突き飛ばされた。そして直後にすぐ後ろから聞きなれた声での大きな声があがる。

 すぐさま後ろを振り向いて―――絶叫した。

「に、げろ……千花っ、んくっ!!」

「……あ………あぁ……うぁ………」

 思わずその場にすわりこんでしまい、兄が倒れる前に言ったことをまもれず、にげることなんてできなかった。

 だって目の前にいたのが伝承でしか見たことない「魔族」であるからだ。小さい子供ですら知っている、『英雄と魔王』の話。そこに出てくる魔王が従える生き物が魔族で、その魔族は一人で人を何人も殺してしまう、そんな『存在自体が悪』である。

 そして伝承は事実、年に1度襲撃があり死者もそこそこでるってニュースをよくみていた。だからか、いままでは遠い出来事だとしか思えてなかったのに。

 自分がその事故に巻き込まれるとは思いもしていない。

 その事故の対象―――実際に目の前にいる魔族はどうか。絵本で見たのと変わらない見た目。その場に魔族がいるだけで、身体を動かすことだけでなく、呼吸すら忘れてしまうほどに。

「あ…ぅ、…にぃ……」

「逃げるんだぁッ! 千花っ! はやくしろぉぉっ!!!」

 何度も自分に逃げるように叫んでいるが、反して身体は言うことを聞いてくれない、立とうとしても、にげようとしても力が入らない。そのうえ、魔族は逃がさないとばかりに、するどい爪が二人の命を切り裂こうとしていた。

「だ、誰かっ! 誰かたすけてぇぇぇっ!!!!!」

「おう、呼んだか、なっ!!」

 叫ぶことしかできなかった私に、この場には居ない誰かが返事をしてくれた。

 声がした方を恐る恐るみると…魔族がいたところには、さっきまで見ていた禍々しいものはいなくて、その代わりに私たちと同じ背格好、怖がりながらも威張るかのようにしてわらうその表情をした、男の子が、阻むかのようにして立っていた。

 妹は英雄なんて、都合の良い存在を信じてなかった。結局はただのお話しだと、捨てていた。その捨てた空想の物語が、すべてを空想な物語に奪われるところだった。

「あぅ、はぅ……」

 でも、目の前にいる人が、自分たちと大して変わらない男の子が、私たちを助けてくれた。

 それはまるで…本当の英雄ヒーローにしかみえない、それ以上に………。


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