エロゲ転生、ワイは全能の魔法使いやで
暗闇の中で何かを呼ぶ声がする。
自分は何をしていたのだろうか……。直前の回想を思い出そうとするも…薄く靄が掛かっている。
自分が何をしていたか……それは……。
―――――さん!――――きさ――――て―――さい!――さん!
回想を中断せざるを得ない程、耳元で大きな声がなる。
もちろん聞き覚えはないし自分はなんのことだかわからない。しかし自分のことではあるような気もするが、なんのことだか心当たりはない。一つだけ言えるのは意識が戻る前…なにかをして………。
――――ゆづきさん! 早く起きてください!
今度は耳元ではっきりと自分の名前が呼ばれた。すべての意識が中断し、だんだんと鮮明に思い出せる気がした。
そして目をゆっくりと開ける。
あっ…。
(知らねぇ天井だ…)
それもそうだ。目を開けてまず入ってきたのは「灰色の雲と降り積もる雪」だったのだから。
天井もクソもない。そして先ほどから聞こえている「幼い女の子の声」だが、視界に一切入らないのは何故か。
その時は頭が酷くずきずきと痛んでいる。何かが流れ出しているような気もしている…、というか実際に流れている。頭から流したのはもはや血の池地獄。
気が遠くなり、文字通りで血が抜けていく、動くにも指一本動かせない、止めようのない状況だ。
というのが俺のこの世界に来てから最初に目覚めた記憶。雪の中で、それも見知らぬ土地で目覚めたなかで、分かりえた『身に起きた事実』であった。
……俺、死ぬんじゃないの??
もちろんあの後死んだなんてことはない。
初めてみたけど、家族に助けてもらったりとした結果、生命活動の停止は回避できた。個人としてはどういうことか全くわからないが、とりあえず俺はこの世界で生きていけるようだった。
もちろんのことではあるがこの世界に来る前の記憶は、実は一切ない。覚えてない、とかではなく、ぽっかり穴が開いたかのようにごっそりくりぬかれている。実際胸にはぽっかりと物理的に空いてはいたが…。
そのため「ゲームをしていたら画面と意識がまっしろになり、気付いたら頭から血を流しながら空をみていた」ということになる。俺が何を言ってるかわからないだろ? 俺だってわからん。
しかしそこはある程度生活したら慣れるもの、習うより慣れろというのは名言中の名言だ。3か月の生活をしてみてわかったが、この世界の生活水準も元の世界と変わらないようで、そこは安心した。
そして俺の名前だが、やっぱりというべきか案の定というか。この世界では『凛堂優月』と変わっていた。念のために元の名前を聞いてみたところ知り合いにそんな奴いないと言われた。しくしく…。しかし、元の世界の名前は使えないのか…。ふむ…。まぁどこかで使う機会があるだろう。うん。
そしてこの世界では驚くべきことに「魔法」が存在するという。俺が生き延びたのも魔法でいう「治癒」の魔法があるから生きられたとかなんとか。
魔法が見たい一心で俺はごねた。そりゃもう家族が心配するほど、ごねにごねまくった。あの時の両親と兄弟の顔は絶対に忘れないだろう。
父さん…母さん……魔法が使いたいです………。
えっ? その後どうなったかって? 司書室らしきところに連れてかれたよ。まずは知識を詰めろということらしい。
そして魔法基礎論という本を渡された結果、だいたいまとめると、魔法を使うためには『魔力の供給と放出』と『属性に対する適性』と『魔力を感知する器官が必要』ということらしい。もっとも、人によって魔力を感知できる器官が異なるらしい。
魔力の『供給』と『放出』についても適性があるようで、これがない人間は魔法は使えない。ひぇぇ。
そして属性については「火・水・土・風・時・闇・光・召喚・精霊・無」と各属性で「攻撃・防御・補助・妨害」という種別がある。そしてそれとは別に魔力の「供給と放出」ができるならだれでも使える「生活魔法」がある。
生活魔法は「威力を出せないが最低限誰しもが使える魔法」らしく、光をつける【光源】や飲み水を確保するための【水道】、そよ風レベルの風を起こす【送風】に火を起こすための【篝火】があるらしい。後は【清潔】などもあるっぽいが、これは適性以前の話らしく、分類上は属性別の基礎魔法のようだ。
属性は後回しだ! だって今は魔法も使えんから何とも言えんのよ。
ちなみにいうと、漫画やラノベの世界にありがちな【収納魔法】や【転移魔法】は見つかってないとか。
正確には【収納魔法】も【転移魔法】も、どちらも光魔法に分類されるが、これは適性があまりいないらしい。これは本ではなくWikipediaからの情報だ。この世界にもあったのかお前…。誰が管理しているのかと思いきや、文末に「最終更新:神」と書かれていた。これ信憑性あるんか? 神て…お前…。
魔力を感知する器官についてだけど、本音としてはぶっちゃけこんなもの眼じゃなくて肌じゃないの? って思ったけど、使える人からしたら実際そうらしい。
唯一の兄弟である典雅兄さんだけが魔法を使えるらしいが、兄さん曰く感覚的なものらしい。魔法を使えるようになると魔法が眼で見えるとかなんとか。兄さんは「空気と同じ色をしているがなんとなくそこにある」ように感じている。
つまり「Don’t think feel.」ってことかね、リー先生?
それで使える魔法はなにか聞いたところ、兄さんは「火・無」の属性持ちで生活魔法と火属性は中級魔法まで、無属性は自身の能力を底上げする【強化】なる魔法を使えるようだ。
火属性の中級については【炎の矢】が代表されるとか。まぁ見た目でもわかりやすいからね。しかし自分に魔法が使えるかわからないので今はスルー。
無属性は魔法を使えるなら生活魔法同様に誰でも使用できる。もうね、これを知ってからは身体強化とかで無双ゲーできるのでは? と頭の中を妄想が全力疾走していた。トリップから戻り、ぜひとも自分も使えるようにならねば、ということで兄さんに【強化】詳しく聞いたところ一般的な意味での【強化】という魔法は、身体に関する機能の一部にのみに適用されるらしい。
重いものを持ち上げたりするときの腕力強化や走るときの速さを底上げするための脚力強化などらしく、全身に使うには魔力が足りず、それも余分な魔力まで使ってしまうらしく、大昔に衰退したとかなんとか。へぇ。無双ゲーは夢のまた夢、というべきかな?
まあ理屈だけ聞けばわからんでもないが、そこは発想の転換でもあるだろう。どこかで読んだラノベや漫画の設定では全身にめぐる神経だか、心臓を起点とした血液だかに魔力を纏わせて全身に【強化】を送っているとか。
ワンパンで敵を倒すとかまさにロマンだなぁ。
異世界転生したら魔物がわんさかいたのでワンパンでのし上がる、というラノベを作れそうだ。文才はないのであきらめるけど。誰か頼む! この世界にネットはあるからきっと書いてくれるに違いない。後で探そう。
話がズレてしまったが、血液も神経も同じ【強化】扱いにしてしまえば、同じ魔力量でも部分を覆うか全身を強化するかの違いでしかない。と兄さんに説明したところ、呆れられたのと同時に目から鱗がぽろぽろ落ちていた。
転生したときに魔法が使える設定で一番楽なのって、漫画やラノベの設定が生きてくることだと思う。かくいう自分も元の世界ではネット小説を書いていたりしたので、こうしたい! というネタはたくさんある。……いつ使えるのかなぁ?
そんな設定…もとい提案を兄さんにして試行錯誤を重ねた結果、成功した。兄さんが大発見だとか言って大騒ぎして両親に見せびらかしていた。
家族総出で大騒ぎしたが、振り回された俺は疲れて寝た。
ちなみにその魔法だが、俺はその魔法を【身体強化】と名付けた。
適当に「スイーツw」とか付けても良かったけど、真顔で兄さんから止められた。
そして検証すること3ヶ月。
ちょっとだけ満足したのでしばらくは実験することにした。もちろん両親を心配させない程度に。
俺は全能の魔法使いであることを知った。
「典雅兄さん」ですが、「TENGA」ではなく「ノリマサ」です。