エロゲ転生、人生をログアウトしたで
人生にログアウトがあるなら…ログオフもあるだろう!
「っていうことがあったんですよ~」
――なぁーにぃー!ヤっちまったか!?
「まぁ、それでヤれたことなんてまったくなかったんですけどねぇ」
――草しか生えない
――戦士(笑)www
――童貞乙www
「まぁ流し流しでやってますけど、ここの流れは…」
――童貞の解説だぞw喜べ童貞どもwww
「どっ、童貞ちゃうわ!」
――流石兄貴wウホッ♂
――野獣はおかえりくださいwww
時は過ぎて半年後。話しているのはマイク付きヘッドホンを被った、どこにでもいそうな若い男。
やっていることは彼が発売日と同時期に購入した舞姫❀トラベラーズだ。彼は発売後から一週間でようやく一周目クリア、そこから一週間後には周回プレイのやり込みを終わらせ、そしてその一週間後で全キャラの攻略と最高難易度の攻略を終えている。
美少女ゲーマーを自称してはいるものの、一日18時間プレイしていたとしても一週間近くかかったことからどれだけのボリュームが詰め込まれているかは想像に難くないだろう。
さらに一年をかけてすべてのダンジョン攻略マップ、ハーレムの伸び率、3DとVR時の攻略方法、最強と効率などの最適化等々、すべての検証を終わらせたのち、彼の趣味である『動画実況』を始めたのが数週間前。そして今に至る。
ちなみにこの男。この姫トラにハマり過ぎて大学は単位を取れずに留年、勤務先のバイトはクビになってしまったのだが、今はその話を置いておこう。
彼は画面内のキャラクターで主人公である男『間宮瑛士』を、手元にある攻略と最適化のチャートがすべて書き記された『ノート』を見ながら操作していた。
その動きに停滞は一切見られず、あらかじめそこに行くことが分かっているかのようによどみなく動かされている。
そして実況動画には付き物であるコメントはリアルタイムで流されている。
……まぁ、そこに流れるコメントはきっと男たちだろう。美少女ゲームというジャンルである以上、ターゲット層が18歳以上の男性であるからだ。
もちろん、18歳未満は入れないように設定している。あたりまえだ。
「この作品の登場人物は全員18歳以上」だからである。
たとえ「うふーん」や「あはーん」などのシーンなども「18歳以上」でなければ見られない。それが紳士である。
もちろん美少女ゲームだから「ロリ」もたくさんいる。というか、一応メインとなる舞台は「学園」なので、たとえ見た目が「高校生」であろうと、18歳以上だ。
もちろん、閲覧者は全員紳士だ。そこは弁えている。男を含むパソコンやスマートフォンの前に居座る紳士はもれなく「YESロリコン・NOにゃんこら」の精神をもっている。だからこそゲームの中、いわゆるアダルトなるシーンにはいれば即座に己のイチモツを全面開帳させて「YES合法ロリ・LET’Sにゃんこら」の精神の元、恋人と利き手と共に己が芸術活動へと勤しむのだろう。
話がそれたので戻ろうと思います。
彼は動画の生放送を始めてから3時間~4時間くらい、それも毎日生放送を行っている。そして初めてようやく1週間。ゲームとしても動画としても佳境を超え、終盤の中でも中間まで進んだところだ。
目の前にはかつて苦しめられた魔皇四天王の一人と相方である『魔皇帝ユーフェウス』と『極色屍鬼メルリア』と対峙する、その扉の前で立ち止まっているところだ。
なお、今は配信中につきVRモードではなく3Dモードである。その3Dモードで画面端には自由に手や体を動かして喋るキャラクターがいて、いわゆる、Vtuberの一人で実況配信を行っているところだった。
「いろいろとありましたけど、ぶっちゃけ言ってしまえばチャートなんて作らなくてもここまでは一周目でも時間を掛ければ到達可能なんですよね……もちろん短時間で効率的に進むならやっぱり、ここのボスは倒しておくことが必須なんですよ」
――へぇ…すげぇな…
――検証乙
――流石兄貴です!今度掘らせてください!
――なんでここだけは倒すん?
「今だとアップデート……まぁ修正パッチがあるのは皆さんご存じですよね?」
おおむね肯定的な意見がコメントで流れており、中には否定的な意見もあるが、それですら彼への誹謗中傷ではない。ユーザー参加型にありがちなコメントバトルが始まるも、それすらお祭りである。
「これが発表されたのは発売の当日ですね。実はこれに大幅な修正が何度も行われたため、現在だと最新は1.30まで公表されていますが、主としては早期過ぎるFDというアペンドディスクから出された新キャラやボスキャラの難易度調整で結局1.30まで伸びに伸びまくってしまったとかなんとか。ほんと開発者様はお疲れ様です」
男の本音であろう。同意する意見が殆どである。
「とまぁ、更新はたくさんあったんですけど…内容ともろもろ検証を行ったんですが、実は難易度が一番簡単なのは1.16だったりしてw」
内容もいたって簡単だ。
「そのひとつ前のバージョン1.15でダウンロード版の姫トラだと何が起こったかっていうのはわかりますよね?FDが発売されて公開されたパッチです。ここでようやく全キャラが揃ったというわけですが…なぜか対象キャラがいることで敵を倒しても経験値が入らないという致命的バグが起きたわけで……。しかし公式が言うには『予想だにしないバグ』が発生したとかなんとか。実際は不明らしいですね…」
コメントでも「調べたけどわからない」という意見が殆どだ。それもそのはず。公式がどの雑誌にもどの記者にも「明確な理由」というものをどこにも公開していない。
「まぁ、それは私の検証範囲外なのでそれは後でリンク貼っておきますから、見て行ってくださいね。もちろん許可はもらってなす」
――ありがとナス
――ありがとナス
――ありがとナス
「君たち、人が噛んだのに茶化すのはどうかと思う」
……まぁ、ネット上ではなぜか妙に連帯感があうのが恐ろしいところでもあるが。
「話をいろいろと戻しますが、1.16がなぜ良いのかという話はこれから戦うラス前のコイツ。
この魔王軍幹部のダンジョンの本棚に詳細はありますが、簡単に説明すれば、魔法の才能は世界クラスだったものの理由不明で闇堕ちをした元魔法使いで、恋人の極色屍鬼メルリアの助力を得て魔王軍の幹部となったのが、この上級魔族たる魔皇帝ユーフェウスですね。そしてクリア後は何故か裏世界を牛耳るボスとして出てくるキャラですが、厄介なのは物理も魔法も殆ど効かず、耐魔や状態異常一切無効という性能なのに、そのうえで本人は平気で使ってきたり、無尽蔵の魔法で全体攻撃をしてくるという、プレイヤー泣かせの大ボスです。
しかしこの敵は主人公たちの平均レベルと直結しているのはご存じですね? しかしなぜかボス攻略だけでいえば、なぜかこのバージョンが一番弱くなるらしいんですね。あらかじめステータスも出しておくとするとこんな感じです」
――ふぁ?
――ふぃ?
――FUUUUU!!
――ふぇ?
――FOOOOO!!
――誰か二人ほど抑えて桶。
――おめーは風呂に入ってこいよ。
「というわけでなぜか最新と比較して全ステータスが0.85倍というなんでそうしたファルコ〇と言わざるを得ない程の超弱体化を遂げてます。そしてラストダンジョンで使用する『太陽神の宝玉』をここで錬金する、という割と有名だけど失敗すると高確率でセーブデータが破損するという危険度がバリヤバとーな技を使うことでここのボスをダメージゼロ、こっちからの攻撃が全部2倍になるというハイリスクハイリターン。
だがしかし、俺はやる。やるときめたらヤる! ハーレムのために!」
――ざわ…ざわ…
――男だ…生放送中に暴挙をしでかすとは…
――意気込みが違う…。ヤる男は…デキる男はちげーなぁ!
なお、このゲームはVR対応なので、LET’Sにゃんこらシーンでもヤったと錯覚できるようになっている。
ユーザーのヤる男というのも、デキる男、というコメントも間違いではないのだ。
なお、感覚だけなので童貞であることに変わりはないのだが、それを言わぬのが菊の花ってやつだ。間違っても口にしてはイけない。
「そう! 俺は今! ここで!! すべてを超える!!」
はっきり言っておくが、この男は今、自分に酔っている。
自分というか…その場のテンションだ。
一つ、彼を擁護するのであれば、彼は普段自分に酔うなんてことはない。根っこの部分は真面目で情に厚い男だ。だが、周りの熱が高いとなぜか状況に酔ってしまうことが多く、ましてや、期待を持たされると格好をつけたがるという悪癖も持っている。もちろん、これが実況動画で声だけが他人に知られる、という現実とは離れていることも要因ではある。が、多くの場合は前者で、その状態でおだてられると暴走してしまうことがありがちだという、性格だからくる現象。
別名、お調子者、ともいう。
「俺はッ! 昨日までに手に入れた『月の欠片』と『星の砂』と『太陽の熱』を融合ッッ!!」
本当にノリだけは目を見張るものがある。
絶賛黒歴史更新中ではあるが。
「いでよッ! 太陽神の宝玉ッ!!」
そして画面がホワイトアウトする。
「ぐぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
ついでに彼の意識もホワイトアウトした。
――ざわざわ…
――ざわざわ…
――主さん? どうしました?
――生きてるかー?
――てか、これ…バグってね?
そして彼―――凛堂優月は、この世界からもホワイトアウトし、別の世界に転生した。
あ、人生の再起動はノーサンキューやで^^