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野盗



 ルートの街を出て2時間後、王都に向かう森の中で川を見つけた俺達は、少し休憩することにした。

 

「それにしても、今まで生まれ育った街を出ていくってのはなんだか不思議な感覚だな。今頃実感がわいてきたよ」

「そうですよね。私も田舎を出るときはいろんな思いが溢れてきました」


「あたしも最初はそうでしたね。でも今は行商生活で街を移動することには慣れっこになっちゃいました」

「そうか、考えてみればその点2人は先輩なわけか。いや、それ以外でも、俺が1番世間知らずかもな。だったら、人生経験が俺たちより豊富なリサに、王都のこととか色々聞いてみたいもんだな」


「あたしで良ければ知ってることなら答えますよ。ただ、安全な街についてからでお願いしますね。この森には魔物だけではなく野盗も出没するそうですから」

「そうだな、すまない。護衛に集中しないとな。今日の日が暮れるまでに森を抜けてラダの町に着かないと危険だ。よし、そろそろ出発するか」


 その時、近くではないが、そう遠くもない茂みに少し違和感を感じた。それとほぼ同時にその茂みから矢が飛んでくるのが見えた。


「弓矢だ! 避けろ!」


 二人の方めがけて矢が飛んでいき、リサの腕をかすった。


「痛い!」

「大丈夫かリサ!」


「え、ええ、かすり傷ですから、……う、うう」


 リサの様子が変だ。苦しそうにして少し痙攣もしだした。おそらく矢にしびれ薬を塗っていたのだろう。


「ソフィー、リサを治してやってくれ」

「ええ、もちろんです。パラライヒール!」


 リサの全身が黄色い光に包まれた。これで少し経てば治るはずだ。

 俺は二人の前に立ち、追撃の矢を切り落として時間を稼いだ。


「もう大丈夫だと思います!」

「よし、それじゃ今度は俺にスピードの魔法をかけてくれ」


「わかりました。少し待っててください。……………………準備できました! スピード!」


 ソフィーの杖の先端から青い光が放たれ俺の体に吸収され、俺の体の周りに青いオーラがまとわれた。

 スピードを出すために必要な筋肉は強化されているのに、体全体は羽が生えたように軽い、とても不思議な感覚だった。


 この状況では3人で逃げられるわけもないし、これから俺がすることは1つだけだ。矢をかいくぐって敵のもとへ行き、敵を殺すしかない。

 殺すことを考えただけで胸がざわつくのを感じた。だがやるしかない。相手はまず間違いなくリサが言っていた野盗だろう。相手は悪党なんだ。ためらう必要はない。少なくともディード王国の法律では野盗は殺していいことになっている。冒険者になった時に、いや、武家に生まれ育った時点でいつか人を殺す覚悟はしていた。


 それに敵は俺たちを殺す気でいる。こっちも殺す気で戦わないと危険だ。ただ、目があったら殺すことをためらってしまうかもしれない。極力目はあわせないようにしたいものだ。

 人を初めて殺すという抵抗感を、理屈でなんとか抑え込んだ俺は、大きく深呼吸してから猛ダッシュで茂みに突っ込んでいった。


 何本か矢を射られたが、全て切り落として茂みの後ろに回り込んだ。敵は3人のようだ。敵が弓から剣に持ち替えるスキをついて2人を切り裂いた。茂みの裏に回り込めたのも、一瞬で2人を切り殺せたのもスピードの魔法のおかげだろう。間違いなく普段よりも全ての速度が上がっていた。

 だが、その時俺の体を覆っていた青いオーラが消えた。スピードの魔法の効果が切れたようだ。


 と、同時に最後の1人と目があってしまった。さっきの2人は目を合わせなかったから殺せたが、やはり目があってしまうと、どうしても殺すことをためらってしまいそうになる。

 敵はひどく怯えた目をしている。仲間が殺されたことに対する怒りよりも、自分の身可愛さの方が勝っているのだろう。野盗なんかしていることもあり、正直、全く救う価値がない人間だと感じた。


「た、助けてくれ! もう悪いことはしない、心を入れ替えてまっとうに生きていく。もちろん、あんたには俺が持ってる金目のものは全部やる。お願いだ、殺さないでくれ!」

「お前はそうやって命乞いをした人間を殺してきたんだろう? 因果応報ってやつだな。せいぜい過去の自分の所業を反省して死ぬんだ。……あの弓矢の腕前があれば少なくとも猟師としては生きていけたはずだ。その能力を悪事に利用し手っ取り早く金を稼ごうとしたことをあの世で反省しろ」


 俺が剣を構えると、敵も覚悟を決めたように剣を構えた。おそらくあの剣にもしびれ薬が塗られているだろう。そうだとしたらかすっただけでも致命傷になってしまう。気をつけなくては。


「偉そうに説教かましてんじゃねえよ!! 死ねえ!!」


 敵が大振りの袈裟斬りを仕掛けてきた。弓矢の腕前はまあまあだったが剣の腕はほぼ素人だ。俺が剣で受け流すと敵は大きく体勢を崩し、俺はそのままガラ空きの胴体を真っぷたつに切り裂いた。敵の体から大量の血しぶきが吹き出した。

 ……悪党とはいえ、初めて人を殺した後はやはり罪悪感と嫌悪感があり、他にも様々な嫌な感覚に胸が締めつけられ、手が震えた。


「ダンテさん、大丈夫でしたか!?」


 ソフィーとリサが心配そうな顔をして駆け寄ってきた。


「ああ、大丈夫だ。ちょうど今終わったところだ」

「そうなんですね、安心しました! さすがダンテさんですね! やっぱりダンテさんはすごいです!」


「リサの麻痺は大丈夫なのか?」

「ええ、ソフィーさんの魔法のおかげですっかり良くなりました。お二人にはまた助けてもらいましたね。本当にありがとうございました!」


「いや、今回は正式に護衛クエストを受けている。リサを守るのは当然だ。むしろ怪我を負わせてしまって悪かった。俺がもっとしっかりしていれば……」

「そんなに落ち込まないでください。あたしは本当に感謝してるんですから。それに、並の冒険者さんだったらもしかしたら全滅していたかもしれません。多分、あたしたちを襲ってきたのは王都で懸賞金がかかっていた3人組だと思います。それくらい危険な相手だったんですから、これくらいですんで良かったですよ」


「そうか、そう言ってもらえると助かるよ。それにしても懸賞金か。それじゃ、気持ちは悪いが3人の死体は4次元袋に入れておいて、王都の冒険者ギルドに提出するか。よし、急いで死体を回収してラダの町に向かおう。これ以上遅くなるわけにはいかないからな」


 俺達は野盗の死体を回収し、足早に移動した。途中何度か魔物に襲われたものの、難なく処理し、日が暮れる前に森を抜け、さらに歩いて真っ暗になる少し前にラダの町に到着したのだった。


 



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