追放と出会い
数ある作品の中からこの作品を目にとめていただき誠にありがとうございます。
ネタバレになってしまいますが、主人公は比較的早い段階で特殊な能力に覚醒します。その点はご安心ください。
それでは、本編もよろしくお願いいたします。
俺は生前田舎に住むごく普通の農夫だった。
ある日農作業をしていると狼型の魔物の群れに襲われて死んだ。この世界ではよくあることだろう。
死後は完全な無かと思っていたのだが、不思議なことに俺は生まれたての赤ん坊に転生していた。
2度目の人生はもっと恵まれた人生をおくりたいものだ。
「ついに17になるまで能力を発現できなかったか、ダンテよ。残念だな、お前には期待していたのだが。……前から言っていたことだが、一族の掟によりお前を今から勘当せねばならん」
「……わかりました、父上。今までこんな私を育てて下さり本当にありがとうございました。母上や姉上、兄上達にもよろしくお伝えください」
ごく簡単な挨拶を済ませ、俺は名門武家であり、これまでの我が家であったホーウッド家の門を出た。
家族にしてはあまりにもあっさりとした別れだが、兄たちは別としても、別に母上や姉上とは仲が悪いわけではなかった。ただ、俺に能力が発現しなかった以上、こんな別れでも納得せざるを得なかった。
ホーウッド家は神族の血を代々受け継ぐ名門武家だ。基本的には10代前半で何らかの神の力が発現する。ホーウッド家では、この100年間で成人するまでに能力が発現しなかった者は一人もいなかった。……俺を除いては。
おっと、今はそんなことを考えている場合ではない。なんせ俺の持ち物は私服と剣と安宿一泊分の金だけだ。まあ、裸で放り出されなかっただけマシと思っておくか。
「とりあえず魔物でも狩って魔石を売るか」
こうなったからにはとりあえず金を稼がなければならない。魔物から取れる魔石は、様々な便利な魔道具のエネルギー源になったり、杖の魔結晶を始めとしたいろいろな武器や防具にも利用される。基本的にいつも供給不足であり、それ故魔石は常に高値で取引されている。
魔物を狩るため、俺はディード王国第三の都市、ルートの市街部を抜け、城壁の外の森に移動した。
「キャーーー!」
森の中を5分くらい歩いていたとき、唐突に女性の悲鳴が聞こえた。俺が声の方向に走っていくと、10匹以上の狼型の魔物に囲まれた魔法使いの少女がブルブルと震えている。
俺はできる限り最速で一匹のストロングウルフに近づき、背後から袈裟斬りを仕掛けた。
「ギャワン」
血しぶきが吹き上げ、力ない声とともにストロングウルフがパタリとと倒れる。それと同時に、少女と残りのストロングウルフ達が俺に気づいた。
「えっ!? ど、どなたですか?」
「今はそんな話をしている場合じゃないだろ! 俺がひきつけている間に逃げるんだ!」
「で、でも、それじゃあなたが危ないですよ!?」
「悪いが君がそこにいるほうがよっぽど危ないんだ。正直な話、逃げてくれたほうが戦いやすくなって助かる」
「わ、わかりました。それではお言葉に甘えて失礼します。あのっ、死なないでくださいね」
少女はそう言って俺の脇を走り去っていこうとした。その瞬間、一匹のストロングウルフが少女の背後を襲おうとするも、俺の剣がそいつを一刀両断していた。
「あ、ありがとうございます!」
少女は礼を言い走り去っていった。
「ウオオーーーン」
ボスらしき個体の遠吠えの後、残りのストロングウルフ達が一斉に襲いかかってきた。
俺は焦らず、時には一匹ずつ、時にはまとめてぶった切り、5匹を処理したところで、ストロングウルフ達は逃げていった。
よし、とりあえず魔石を回収しておくか。俺がストロングウルフを解体していると、背後から気配を感じた。俺は思わず背後を振り返った。
「あ、あの、先程は本当にありがとうございました」
そこにいたのはさっきの少女だった。ピンクのセミショートの髪で、よく見るととても整った顔立ちの可愛らしい美少女だった。魔法使いがよく着ているローブの上から見ても、スタイルの良さが分かる。
「まだいたのか」
正直街まで逃げていっただろうと思っていたから、俺は内心驚いていた。
「そりゃそうですよ! 私、助けてくれた人を見捨てるような育てられ方はしていませんから。……本当に感謝しているんです。何かお礼をさせてください!」
「いや、別にお礼と言われてもな。こっちは魔物を狩りに来て、助けることになったのはたまたまだし、気にしなくていい」
「で、でもそれじゃ私の気が収まりません。せめて今回のクエスト報酬だけでも受け取ってください!」
「クエスト報酬? 君、冒険者なのか?」
「はっ、はい! 一応そうです」
「何で一人で行動しているんだ? 悪いが、腕に自身があるわけでもないだろう?」
「あうう、そうなんですよ。田舎から出てきたばっかりで、パーティーを組んでくれる方が見つからなかったんです」
そう言うと、彼女は困り顔をした。
ふむ、冒険者か。悪くはないな。正直、その自由な生き方に憧れに似たものを感じていたこともあった。なんにせよ、金を稼ぐ手段の一つとして、話くらいは聞いておいてもいいだろう。
「わかった。それじゃ、ありがたく受け取っておく。それと、冒険者登録の方法なんかも教えてくれると助かるんだが」
俺がそう言うと、彼女の表情が明るくなった。
「えっ、もしかしてあなたも冒険者になるんですか?」
「い、いや、まだそうと決めたわけではないんだが」
途端に彼女の表情が暗くなる。……なんていうか、わかりやすい娘だな。
少しの沈黙の後、今度は真面目な顔をして彼女は口を開いた。
「でも、興味があるんだったら絶対なったほうがいいと思いますよ。だってあなた、すごく強いし勇気もあるじゃないですか。私なんかよりも断然向いていると思います!」
彼女の真剣な眼差しと力のこもった言葉は、なぜだが俺の心を震わせた。久しぶりにこんなにもはっきりと肯定してもらえたからだろうか? ……いや、理由なんて考えてもしょうがない。ただ単純に、俺は冒険者になりたいと、その上で彼女と行動を共にしたいと感じた。俺はその感覚に正直になればいいのだろう。
「わかった。それじゃそうするよ。ところで、俺が冒険者になれて、もし君さえ良ければ、俺とパーティーを組まないか?」
俺のその言葉に、彼女はキョトンとした。あ、やばい、これで断られたらすごくへこむな。俺がそんなことを考えていると、
「え、ええー!? わ、私なんかでいいんですか? そりゃもちろんすごくありがたいですけど、あなたにとってメリットないと思うんですけど?」
「あ、ああ。まあ、あれだ。やはり怪我をしたときやどうしても魔法が必要になるときもあるからな。それに、レベルが低いぶん、すぐに成長するさ。それに、そのまま一人で活動して死なれたらなんだか目覚めが悪くなりそうでな」
「わかりました。精一杯頑張るのでこれからよろしくお願いします。……あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私、ソフィーって言います」
そう言いながら、彼女は手をさし伸ばしてきた。俺はその手をギュッと握って、握手を交わした。
「俺はダンテ。これからよろしく頼む」
こうして俺はソフィーと出会ったのだった。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
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適時本文やタイトルなど変更することもあるとは思いますが、ご了承いただければ幸いです。
では、これからもよろしくお願いいたします。