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三題噺短編集

三題噺集・四

作者: 北守

 北の大地、北海道の冬は身が凍えるほど寒い。

 北海道の広大な大地に自分の平家一戸建てを持つのが憧れである私は、現在、夫婦で一戸建ての借家を借りている。冬の暖房費が高いのは困るが、会社から暖房手当が出るのでまぁ良い。

「またかあ」

 これで3通目。そろそろ直接怒鳴り込んできても良い頃かもしれない。何とは、苦情のお手紙だ。大家さんは貸し家で生計を立てているのだろう、私の家以外にも貸し家を持っている。幸い、家賃は遅れていないので、嫌味は言われていないが、真隣りに大家さんの家があるため、少し気難しい人でちょっとの騒音を立てようものなら、こうして苦情の手紙を寄せてくる。

 問題はもうすぐ生まれてくる子どもの事だ。私たち夫婦には子どもがいない。が、妻のお腹の中には子どもが授かっていて、予定日が近い。子どもができたら今しばらくは泣き声などが深夜にも響き渡るだろう。

「大家さんに一言先に詫びを入れておこう」

 肩身狭し。早く持ち家を持ちたいものだ。

 ピンポンと大家さんのチャイムを鳴らすと、いかにも偏屈ジジイの見た目をした大家さんは現れた。

「なした?」

「あの……ご相談、というかご報告なんですが」

「何さ」

 言いづらそうにしていると、大家さんは早く言えとばかりに急かしてくる。

「もうすぐ、僕たちに子どもが産まれる予定なんです。深夜泣き声でうるさくなってしまうかもしれませんが、少し大目に見ていただきたく……」

「おやまぁ、そりゃあ、めでてえこっちゃ! おめえんとこ、もう越してきて3年経つもんなあ。ようやく子どもができたかぁ」

 さっきまでの気難しそうな表情はどこへやら、まるで我が事のように喜ぶ様子に私は驚いた。

「おめえ夜中まで自分らのために遊んで暮らすのは良いけどさ、こっからは子どものために生きるんだぞ。子どもを持つと言うことは責任を持つってことだべよ」

「そう……ですね」

 責任を持つ、かぁ。妻を娶る時にも責任は考えたことはあったけれど、子どもができると知った時は嬉しくて何も考えてはいなかったな。

「子どもを育てるのはゆるくねえぞ」

 大家さんの、今まで子どもを育ててきた貫禄が見てとれた。あぁ、偏屈ジジイと思ったけれど、全然違う。説得力があった。

「うちんとこは子ども一人生まれたら、どんどん増えてっておかげで4人兄弟になっちまった。一時は金がなくて、ゴミステーションに投げちまおうかと思ったが、子どもの成長を見てるとそんなこともできなくてなあ」

 大家さんにもそんな過去があったのか。貸し家あるくらいだから、金はたくさんあると思っていたが、過去はそうでもなかったらしい。

「お前さん、子宝に恵まれてよかったなあ」

 子どもはいいぞ、と嬉しそうに語る大家さんに、私は大家さんへの印象がぐるりと変わった。なんて情け深い人なんだろう。

「はい、第一に大家さんにご報告できてよかったです」

 そう話すと大家さんは途端に渋い顔になった。

「おめえ、仕事先の人には報告してないのけ?」

「あ……はい、まだ」

「さっさと報告しなきゃあだめだべさ! しゃんとせえ! 父親になるんだろ!」

「はい!」

 途端に怒鳴り声を浴びせられて、私は思わず返事した。筋をちゃんと通そうとする姿勢も今では好意的に思う。

 大家さんとはもう少しだけ長くお付き合いすることになりそうだ。


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