死んだ幼馴染がいきなり蘇ったから、暇なときに写真を眺めてるのがバレた
特にすることも無い昼下がり。
スマホに保存してある写真をなんとなく眺めていると、八畳の部屋にインターホンの音が響いた。
「ひさしぶり〜。 来ちゃった!」
細いけれど暖かみを感じる目元が、僕を見た瞬間に更に細くなる。
「え、えー……っと。 ふーちゃん?」
「そうだよー。 って、なんでちょっと忘れてるの?」
「ごめんごめん。 久しぶりすぎて」
ふーちゃんは軽く怒ったふりをした。
その姿が記憶のままで、なんとなく昔に戻った気がする。
「いきなりだけど、上がってもいい?」
「う〜ん。 散らかってるからなぁ」
部屋には必要最低限のものしかない。
「あっ、そういえば!」
話を変えるために、わざとらしく声を上げた。
「どうやってこの場所を?」
僕は数年前にここへ越してきた。
しかし、それはふーちゃんが遠いところに行ったあとの話だ。
「なんとなく」
「なんとなく!?」
「うん、君の場所はなんとなくわかるの」
「へ、へぇ……。 そうなんだ……」
納得はできないが、彼女はつまらない嘘をつくような人ではない。
まあ、そういうこともあるのだろう。
僕の頭は既に混乱を始めていた。
「上がっちゃうね〜。 失礼しまーす」
「あっ、ちょっ」
いつの間に靴を脱いだのか。
彼女は前触れも音もなく、僕の脇をすり抜けた。
振り返ったときには、既に彼女の手には僕のスマホが握られていた。
スリープ状態にはしていなかった。
「これ私の写真だね。 うわぁ、懐かしいなぁ。 っていうか、ずっと私の事考えてたの? えっちだねぇ」
ふーちゃんは写真を見ながら、からかうように笑った。
「悪いかよ」
僕は少しばつの悪そうに、けれどできるだけ真剣に問いかけた。
「――ううん。 嬉しい」
そうすると、彼女も先程とは違う微笑みで返してくれる。
それが嬉しくて。
もう僕の心から警戒心は抜けきった。
「ちょっと帰ってくるのが遅いんじゃない? こういうのって、お盆とか夢とかで一年以内には会えると思ってた」
「ごめんねぇ。 なんていうか、意外と大変なんだよ。 詳しくはルールで言えないんだけど。 でも、おかしかったなぁ。 君、私の事すごく疑ってるんだもん」
「そりゃ疑うでしょ。 数年前に亡くなった人が目の前に現れたら」
数年前に亡くなった幼馴染が、突然僕の部屋に遊びに来た。
意外なことに普通に物に触れるらしく、散々ゲームで遊び倒して、とうとう夜になってしまった。
「ねぇ……ありがと」
ゲームをしながらふーちゃんは呟いた。
ハッとして彼女を見る。
「感謝の言葉なんて……言ってほしくない」
真面目な話はしたくなかった。
現実に戻ってしまうような気がして。
彼女がどこかに帰ってしまうような気がして。
「君のことだから、まだ未練がましく私の事を引きずってるとは思ってた。 そうだったら、頬でも叩いて目を覚ますつもりだった。 でもね、ダメだった」
ふーちゃんはコントローラーから手を離して、こちらに遠慮がちに目をやった。
「だって、好きだから。 私はずっと好きだから」
彼女は顔を伏せて、僕に正面から抱きついた。
「好きな人に好きでいてもらえて嬉しいのは、死んだって変わらないよ」
「……うん。 僕だってうれしい。 まだ好きでいてくれるなんて。 向こうで他に好きな人見つけたっていいんだよ?」
「いやいや、それは死ぬ人が言う台詞でしょ! ……ぷふっ、あはは!!」
彼女は抱きついたまま、大きな声で笑った。
耳に響くけど、悲しい話をするよりもいいと思った。
しばらく笑ったあと、ふーちゃんは立ち上がって
「話したいことは話し終わったよ」
きっぱりと、そう言った。
「ま、待って」
「んー? なぁに」
なにか、なにか話すことはないか。
このままでは彼女はどこかに行ってしまう。
そんな気がして、必死で言葉を考えた。
「僕もずっと好きだから! だから、また来てよ……。 また二人でゲームしよう。 そうだ、今度は外にでかけよう。 ほら、デートデート! もしかしたら、ふーちゃんは他の人には見えなくて、僕が妄想癖のやべー奴になるかもしんないけど!」
でも、考えても考えても、今を引き止める言葉は出てこなくて。
「だからさ、早く会いに来てよ。 お願いだから……」
次を約束してもらうしかなくて。
僕は座ったまま項垂れた。
「早く来てもなにも、どこにもいかないけど?」
「……え?」
ふーちゃんはキョトンとした顔で首を傾げた。
でもすぐ、また大きな声で笑い始める。
「もしかして、私が帰っちゃうと思ってたの!?」
「えっ、帰んなきゃいけないんじゃないの?」
「そんなルールないよ」
いや、ルールって。
そもそもふーちゃんは、どういう状態なんだ?
今更ながら物に触れることとか、普通に僕の前に現れたらことを不思議に思った。
「『話し終わった』なんて席を立ったら、誰だって勘違いするでしょ!」
「話は終わったから夕ご飯食べようって言うつもりだったの! 久しぶりに私が作ってあげようと思って席を立ったの!」
「料理もできるんかい!」
思わずツッコミを入れてしまった。
でも、それくらい自然に話せることが嬉しくて。
たた一緒の時間を過ごせることが信じられなくて。
「わかった、手伝うよ。 でも材料ないから買いに行くところからな」
「はーい」
もう離れないように。
今度こそ離さないように。
できるだけ近くにいようと思うのだった。
「ちなみに、私は他の人からは見えないよ。 だから君は妄想癖のやばい人だと思われないように気をつけてね」
「あっ、それは本当なんだ……」