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「キョウちゃんおかえり!」
「キョウおかえり~」
コンビニに行って帰ってきたら、リクが帰宅していて、ついでにカナメが上がり込んでいた。
「ただいま。あれ? 今日帰ってくるんだったっけ?」
「ドタキャンされて無くなったぁ」
「あぁ、なるほど。で、カナメ、おまえは最近来すぎじゃねぇか?」
ここんとこ毎日カナメと顔を合わせてる気がする。入り浸りすぎだろ。
「嬉しいだろ? 俺に会えて。なぁ?」
こいつの顔が良いのは認めてるけど、全然タイプじゃない。つーかドヤ顔むかつくな~。
「いや別に。そろそろ家賃払ってくんね?」
「冷てぇな~。ぴえんっ。カナメくん泣いちゃうっ」
「うぜー帰れ」
ガサガサと袋からアイスを取り出して、冷凍庫に入れていく。
「何買ってきたの?」
リクが私の肩に顎を乗せ、覗き込んでくる。
「ダッツ。急に食べたくなって」
「えっ! ねぇねぇ! これっ、生チョコキャラメルマシュマロ! 俺、食べていい?」
「はいはい。おまえのだよ」
リクは名前だけで胸焼けしそうなフレーバーを手に取って、きゃっきゃっと女子みたいにはしゃいだ。
マジでよく食えるよなこれ。前に一口もらって激しく後悔した。
「じゃー、俺は抹茶もらうわ」
「はいはいどうぞ」
カナメは甘過ぎない和もの系が好きらしい。ほうじ茶とかきな粉とかがあると必ず選ぶ。
……ん? 何で私はこいつらの分も買ってきちゃってんだ? 馬鹿か?
「あれー? キョウちゃん珍しいね。バニラじゃないんだ? ……ぎゃあ! チョコミント!」
「げぇ。歯磨き粉じゃねーの」
「チョコミントなんて邪道だよキョウちゃん! 何で甘いものに余計なもの入れるの!」
「おまえの舌どうなってんの」
チョコミントを見た二人が顔をしかめて、チョコミントが嫌いな奴の鉄板文句を垂れる。
「うるせー。ひとの嗜好にケチつけんじゃねー」
……まぁ、分からなく無いんだけどな。
ペリッと内蓋を剥がして、カチカチのアイスに強引にスプーンを刺す。グリグリと力任せに掬って、ひと口。
「……うん。やっぱ好きじゃねぇわ」
「「ええ?」」
私の呟きに、二人は同時に困惑したようだった。
ひとをイラつかせるいつもの態度は鳴りを潜め、驚くほど素直で純粋な表情と声色。
や、そうだよな。好きじゃない味なのに、わざわざちょっとお高いアイス買ってんだもんな。意味分かんねぇよな。
「はっ、ふふ、おまえら、おんなしアホ面晒して。ふ、ふふ、ふふふ、ふふっ」
何だかひどく面白くて楽しくなってしまった。
やばい。笑い止まんないわ。
「……えっ。なにこれかわいー。こんなに無邪気に笑ってるキョウちゃん初めて見た……」
「……こんな顔で笑えんのなァ……」
気の抜けた顔でこっちを見てる二人が可愛く思えてくる自分が可笑しいしキモくて、さらに笑いが止まらない。
あぁ、涙まで出てきた。
「うわ~うわ~。こんなっ。もうなに。可愛い~。何あれほんとに可愛い。やばい。マジ天使じゃん。涙舐めたい」
「三人でするか?」
「めちゃくちゃしたいけどキョウちゃんに嫌われたら死ぬから死ぬ気で我慢してんの余計なこと言うんじゃねぇよ」
「早口キメェな」
「脳みそが常に下半身にある野郎は黙ってろ」
「急に自己紹介始めたのか?」
「おまえよりは分別あるし、刺されたことないもん」
「あ~。あれは痛かったなァさすがに」
何か二人が喋ってるけど、自分の笑い声でよく聞こえない。
ちょ、マジ、腹筋が。腹筋が死ぬ。
何でこんなにおかしいの。息苦しっ。
「……キョウちゃあん。大丈夫? 水のむ?」
「ふふっ、うん。ふふふっ、ちょーだい?」
「うっ」
ヒィヒィ言ってる私に嬉しい申し出だ。喉すげぇ乾いちゃった。
「はぁぁぁもぉぉぉくっそ可愛いなーーーぁ!!?」
「これ無自覚なんだよなァ? なぁ、やっぱやろうぜ? もういいだろこれ。俺達は無罪だって」
「黙れ殺すぞ」
「怖……おまえってキョウに際どいことすんのに、最後の一線は頑なに守んのな……」
ふー……苦しかった。
…………ふっ、あ、だめ。思い出すと駄目だわ。また笑っちゃう。
我慢我慢……
「キョウちゃん落ち着いた? もー、チョコミントのなんて食べるから」
「ふふっ! なんでチョコミントのせい? そんなわけないだろ?」
どういう理屈? ふふふっ。また笑っちゃうじゃん。
「つぅか、キョウはどうしてそれ食べた?」
カナメがごもっともな質問をしてくる。
目尻に溜まった涙をピッと指で弾いて、答えた。
「兄貴が好きだから」