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「なぁ。キョウ」
遅めの朝食もとい昼食を食べ終わり、お気に入りのソファで寛いでいると、シャワーを浴び終えたカナメが声をかけてきた。リクは入れ替わりで今シャワーを浴びている。
「なに?」
「煙草吸わせてくんないから、口寂しーんだけど」
「そうなんだ~。帰れば?」
うちは禁煙だ。
健康がどーのこーの言うつもりは無いが、カーテンにも壁にもあらゆるところに臭いがつくのが最悪で無理。却下!
「なぁ。口寂しいんだって」
「うん、だから、家帰って吸え?」
しつけぇなニコ中野郎。てめぇの家で好きなだけ吸いやがれ。
「キョウのせいだから責任取ってくれよ」
「は?」
責任? 何を求めてんの?
訳が分からず顔を上げると、思ったより近い距離にカナメの顔があった。
カナメはソファの後ろから覗き込むようにこちらを見て、ニタリと笑う。
あ、これ、やば。
そう思ったが、奴の方が速かった。私の喉をつうっと指で撫で、そのまま顎を強引に持ち上げた。
「カナ、んっ、む、んんん!!」
強制的に首を真上に向けられ、口も塞がれ、非常に苦しい。頭もがっちりと固定される。
「ん、うむっ、カナ、んぐ、えぅ」
「んっんん、れろ、ん」
っのやろ、舌入れてきやがった!
「ん、くっ、……えぁ、ん」
「……はっ、んんっ」
さっきからカナメの手を外そうとしてるけど、存外強くて上手くいかないし、首がえらい角度になっててしんどい。しかも長ぇよまだ終わんねぇのかっ。
「あーーーー!? ちょっと!? 何二人で楽しんでんの!? おれだってキョウちゃんとちゅーしたい!!」
嘘だろリクもう出てきたのか? いつもより早くねぇ? リクまで相手にしてらんねぇぞ。
ちっ、抜け出すのが無理なら――
私は思いっきりカナメの頭をひっつかむ。求められたと思ったのか、カナメが更に舌を絡めようとするが、んなわけねーだろ!
両手を拳にし、カナメの蟀谷を力一杯ぐりぐりと押さえつけてやった。
「痛ってぇぇえ! 痛い痛い痛い痛いって!!」
カナメが絶叫して離れていく。
「キョウ、容赦ねぇな!? 力強過ぎねぇ!?」
相当痛かったらしい。涙目だ。
「そりゃ離れて欲しくて本気でやったからな。ったく、首痛ぇんだけど? けほっ……」
無理な体勢でディープキスをかまされたこっちも相当苦しかったっつーの。あー、酸素がうまい。
「いやぁ、そうでもしねーと逃げられそうだったからなァ。いや~最後かなり痛かったが、ははっ、良いもん食えたぜ」
カナメはペロリと唇を舐め、妖しく笑った。
満足そうな顔しやがってくそが。
「キョウちゃん大丈夫!? ほら、水飲む?」
「お、さんきゅ」
リクが気遣わしげに水の入ったコップを持って来てくれたので、ありがたくもらう。
「飲み終わったら、おれともちゅーして?」
「……ぶれねーな、おまえ」
たまには気が利くじゃんなんて見直した瞬間に裏切るのがこの同居人である。
「カナメが良くておれが駄目とかないでしょ? ね?」
「ヤだよ。てか、おまえちゃんと見てただろ? どう見ても合意のもとの行為じゃなかったろ? 私がしたくてしたんじゃない。だからおまえともキスはしない」
「えぇ~そんなぁ」
ガックリと項垂れるリク。
「そんなにキスしたいならカナメとすればいいじゃん」
うん、良い案じゃないか?
カナメがキスしてきた理由、口寂しいだし。リクも似たようなもんだろどうせ。二人で完結してくれ。
「イヤだよ! カナメとキスして何が楽しいの!?」
「全くだ。リクとキスすんのはごめんだね」
即、反論された。しかもわりとガチめに嫌そうだ。
「えぇ……? やることやってんのに?」
わっかんねーわ。
コイツらの線引きがまるで分からねーわ。