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「……あれ?」
目が覚めたら自分の部屋だった。
たしか、昨日の夜はリビングのソファで寝た(気絶ともいう)はずだよな?
つか、……寝すぎたっぽい……頭痛ぇ。
カーテンから差し込む眩しい光のせいで尚更痛む気がして、逃れるためにゴロリと寝返りを打つと、見慣れた顔のどアップ。
「……何でここに」
同居人のリクだった。
すぅすぅと寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。
なるほどこいつが運んでくれたのか。で、そのまま布団に潜り込んで来たと……いやそれは何でだよ。自分の部屋帰れっての。
低血圧の私は朝に弱くて、動き出すのに時間がかかる。目付きの悪さを自覚しながらぼーっとリクの寝顔を眺める。
シミ一つ無い綺麗な肌に、眉毛も細すぎず太すぎず。髪は少しだけ癖があるが艶々していて、目元のほくろが色気を醸し出している。口紅なんかしているわけがないのに、唇は綺麗な赤。女子が羨みそうだ。
――黙ってりゃ上の上のイケメンなんだよなぁコイツ。黙ってれば。ほんっと、黙ってればね。
残念な事実を再確認していると、リクの長い睫毛が震えた。
「……おはよぉ。キョウちゃん」
垂れ目を細め、掠れた声で私の名を呼ぶリク。
昨日あんだけ声出してりゃこうなるよな。
「起きたら目の前にキョウちゃんがいるなんて幸せ」
「おまえが勝手に潜り込んできたんだろーが。あぁでも運んでくれてありがとう」
私がリビングで寝落ちした原因、間違いなくおまえらだけどね。
まぁ、一応お礼を言っておく。
「どういたしまして。えへへ、こうやって二人でベッド入ってると俺たち新婚さんみたい。そう思わない? キョウちゃ……ううん、旦那様? ダーリン?」
「はぁ?」
私が旦那かよ。ってかその前に何よりも、おまえの相手は私じゃないし、頼まれても全力でお断りなんですけど。朝からウザ絡み止めて欲しい切実に。
「ねぇダーリン。ハニーって言ってよぉ」
「誰が言うか。ちょ、おい」
奴はトロリと蕩けた表情を浮かべると、物欲しそうに私の鼻に自分の鼻を擦りつけ、布団の中にある長い足を私の足に絡ませてきた。その感触。
――待て、これ、まさか……全裸じゃねぇだろうな?
「おいっ!」
「ちゅーしよっか? それとも、もっとイイこと――?」
そう言って下半身を押し付けられそうになって、バチリと目が覚める。
「てめぇの彼氏とやれ!!」
「ぐふっ!!」
朝イチの蹴りにしちゃあそこそこに威力を出せた、と思ったが、床に蹴り落とした奴は「あぁん容赦無ぁい」とわりと余裕そうだ。
「もっかいいっとくか?」
「愛が込められてるなら喜んで!」
「あーあー黙れ変態」
おかわりを要求する奴にドン引きしながら、ちらりと下に視線を向ける。直視しないように薄目で。
あ、良かった下着は履いてたんだな。
は~~ぁぁ、朝から嫌なもん見させられるかと思った。
「おいおい、朝から激しいな。俺も混ぜろよ」
紫煙をくゆらせながら、男が部屋に入ってきた。
「……ノックをしやがれ」
「俺とキョウの仲じゃねぇの」
「仲良くなった覚えはねぇし、たとえ親しくてもノックしろ」
私よりもリクよりも背が高く、鍛えているらしいがっしりとした体つきに見事なシックスパック。シャープな目鼻立ちに無造作なウルフカットがよく似合っている。認めるのはシャクだが、この男もリクに負けず劣らずのイケメンだ。
……繰り返すが、双方ともに「あくまで外見は」と、注釈が付く。
「あと禁煙だここは。つぅか何でこいつもおまえも服を着てねぇんだよ……」
「下は履いてるだろ? で、キョウが欲情してくれればいいなと思って。どうだ?」
「しねぇ。帰れ」
「ま~じで? こんなにイイ身体なのに? キョウはつれないねぇ~」
そう言って男――リクの昨晩のお相手であるカナメは、ニヤニヤとからかうように笑った。