【コメディーホラー】無人駅の駅員さん
意味分か風味
某県の片田舎、寂れた場所にこの駅はある
地元住民からは無人駅扱いされているが、改札に人が居ないだけで、駅員はちゃんといる
と言うか、俺がそうだ
二十五歳の平社員なのだが、この駅を一人で切り盛りしている
毎朝ホームを掃除しているのだけど、客が少ない上に影が薄いせいで、ほとんど気付かれないのだ
……やっぱり改札に立つべきか?そうすれば嫌でも気付いてもらえるだろうから……でも人手不足でそこまで手が回らないんだよな
そんなに仕事多いのかだと?
そんなの多いに決まってるだろ!ちょっと『駅員 仕事』でググってみろ、大量にあるから!……まぁ、俺はサボりまくってるんだけどな(ワラ)
膨大な仕事の中で毎日ちゃんとやっているのは、朝に軽く掃除するのと日報を書くくらいだ、余った時間はゲームをして遊んでいる
……仕方ないだろ!
俺は知らずに専務の愛人と付き合っただけなのに、無人駅に飛ばされたんだぞ
これでやる気が出ると思うか?出るはずないだろ!
……でもそう考えてみると、只でさえ影が薄いのにほとんど外に出てないから、そりゃ無人駅だと思われるか
うむ、自業自得だな、あはははは
この前聞いた話なんかじゃ、この駅には幽霊が出るとまで言われてたからな
多分どころか間違いなく俺の事を言ってる、思わず苦笑いしちゃったぜ
影が薄いのもあるけど、ここに来た当初はやさぐれていて、電気も点けずに専務への怨み事をぶつぶつ呟いてたからな、多分それが原因だろう
……無人駅に響く怨みの声、そんなの聞いたら確かに怖いな(ワラ)
だが、勤務態度を改める気はない!
毎日遊んでるだけで給料が貰えるんだ!更に俺一人だからやってもいない残業も付け放題だ!こんな天国止められるはずがない!
ガタンゴトン……ガタンゴトン……キキーッ
おっと、ゲームしながら現状に満足していたら、電車が来たみたいだ
本当はホームに出なくっちゃいけないのだが、時刻表すら貰っていないので、出た事は一度もない
だけど毎回勝手に止まって勝手に発車しているから、問題はないはずだ
優秀で臨機応変な車掌さんには頭が上がらないぜ……今度プレゼントでも買ってやるか、金ならあるしな
だいたいここはダイヤが不規則過ぎるのだ
毎日夕方に来る電車があるのだが……午後何時とかではなく、日が沈むと来る
普通は毎日同じ時間、何時何分と決まっているのに、この電車に限っては日が沈んで空が紫色に染まると来る
俗に言う黄昏時ってやつだ……時間設定した奴は中二病を患っているに違いない、真面目に仕事しろ!と怒鳴りたくなるぜ
おっと、ブーメランが俺の心に刺さったな、迂闊なことは言わないでおこう
ついでに言うと、電車の時刻がおかしければ、それに乗る客もおかしい
来る客、来る客、全員無言で足音一つ立てないで乗り込むのだ
この地方のルールなのか?
何度か挨拶したんだが……みんなギロッと睨むばかりで、返事も返さずに電車に乗り込むんだぜ
正直気分悪いよ、挨拶は基本だぜ基本、せめてニッコリと微笑み返せよ!
ガラガラガラ!!
等と思っていたら、駅員室の扉が開かれて一人の女が入って来た
顔を見なくても分かる、どうせいつものあいつだ
「姥神ちょうど良い所に来た、冷蔵庫に麦茶入ってるから注いでくれ」
「オッケー……じゃないわよ!何度言ったら分かるのよ、仕事しなさいよ!せめてアナウンスくらいしなさいよ!」
怒鳴りながらも冷蔵庫に行くと、麦茶を取り出してコップに注いでくれた、優しい
こいつは背が馬鹿みたいに高いが、見た目は二十歳くらいの綺麗な女だ、名前は姥神という
一昔前の9×111みたいな車掌の服を着ているのだが……うん、こいつが車掌だ、切符売りも兼任している
そして電車が止まるとやって来て、俺に変な仕事を強要する困ったちゃんでもある
「仕事ならしているだろ?今から島民に頼まれて、街道を占拠しているモンゴルを倒しに行くんだから」
「それはゴーストなツシマのクエスト!ゲームは仕事じゃない!」
うるさいなー
でもあんまり無視すると電源切りかねないんだよな……仕方ない、念のためにセーブして、セーフモードへと……
テレビの電源を切って振り返ると、いつものダボダボな車掌服を着て背中に籠を背負っている姥神が睨んでいた
「で、またいつものをすればいいのか?」
「そうよ、今日は二着……最近は運賃を持たせない葬儀が多いから、仕事が増えて嫌になるわ」
「そーかそーか」
こいつ……運賃持ってない客の服を、金の代わりに徴収してるんだよな
だから聞き流す、共犯者と思われたくないからな!
俺は体重計にザルを乗せるとゼロに合わせた
何をやってるかだって?これが彼女の言うお仕事なんだよ
本当はやりたくないが……こいつ俺より力あるから、逆らうのが怖いんだよ
「ほら、愚痴ってないでセットしたから、一着くれ」
「パートナーなんだから愚痴くらい聞きなさいよ!まったく……はい」
渡されたのは成人男性が着てたと思われるメンズ服、素材が綿ぽいのに異様に軽い
俺はそれを無造作に体重計に乗せた
チカチカと動くデジタル数字が止まるのを待って、重さを姥神に教えてやる……面倒なので端数は切り捨てだ
「10グラムだな」
「軽っ!なんで下りに乗ってるのよ!絶対乗り間違えてるわよね!あー……問い合わせなきゃ、また仕事が増えた」
「御愁傷様、ほら、もう一着あるんだろ?」
体重計から回収した服を持って催促すると、今度は小さめの服を片手に持って差し出された
サイズと柄から察するに、中学生くらいの男の服かな?びっしょりと濡れている
というか、こいつが持ってくる服はたいてい濡れている、さっきのみたいに乾いている方が珍しい
片手で受け取って……うおっ!重くて床に落としてしまった!
危ねー、関節やる所だった!
たまに思うけど、姥神って腕力あり過ぎじゃね?床に落ちたのを、俺は両手で持ち上げようとしてるんだが、持ち上がらないんだけど!
「これ本当に水か?信じられないくらい重いんだが!」
「正真正銘川の水よ、いいからさっさと計りなさいよ、その重さが罪の重さなんだから」
「罪の重さ」キリッ
「ぶっ殺すわよ」
「さーせん」
床の服をズリズリと引き摺って、端から少しずつ体重計に乗せてやる
濡れてるからなんとか動かせたけど……これを片手で持つとか、姥神さんパネーっす
「姐さん測定結果出ました、250キロです」
「姐さん言うな!……あんたのリアクションから重いとは思ってたけど、これは裁判抜きで最下層行きね」
「ついでに、これを片手で持ててた姥神は、動物園行きだな」
「ほほーお……ならあなたは、私のエサにしてあげるわ」
「待てゴリラ!俺は食ってもうまくないぞ!」
「誰がゴリラよ!」
「お前以外にいないだろ!見た目が美女でも俺の目は誤魔化されないぞ!」
「び、美女言うな!」
顔を赤らめて焦るゴリラ、相変わらずチョロいぜ
「こいつ、怒らせてもちょっと誉めてやれば上機嫌になるから扱い易いんだよ、将来はきっと、悪い男に引っ掛かっていいように弄ばれるんだろうな」
「不吉な予言を言うんじゃない!」
「はっ!思っていた事が声に出ていた」
「絶対わざとよね!」
「大正解、そんな姥神には賞品として、お弁当をあげよう」
掴み掛かって来た姥神に、お弁当を渡してやる
なんと俺のお手製だ、時間だけはいっぱいあるから、夕方前に作って用意しているのだ
因みに使い捨て弁当箱を使って、駅弁チックにしている
「うっ……いつもありがとう」
お弁当一つで機嫌を治す姥神
年々チョロくなっていくなー、本気で心配になるレベルだ……これは冗談抜きで対策した方がいいかな
このまま放置しておいたら、口の上手い男にあっさりと騙されて、不倫とかしそうだし
うーむ……よし!
「なあ姥神、今度の休みは何時だ?飲みに行こうぜ」
「……三日後が休みだけど、変な事しないわよね」
酷い!そんな警戒しなくてもいいのに!
前回酔ったこいつにフランクフルトを食べさせて、その動画をSNSに投下しただけなのに、まだ根に持っているのか!
「しないしない、せいぜいお持ち帰りするくらいだ」
「絶 対 行 か な い !」
「じゃあ明後日仕事終わったら来てくれ、うまい店予約しとくから」
「聞きなさいよ!行かないって言ってるでしょ!」
ぷりぷり怒る彼女に、俺はニッコリと微笑んでやった
「大事な話があるんだ、絶対に来てくれ」
「うっ……わ、私は行かないからね!」
姥神は体重計から服を奪い取ると、逃げるように去っていった
ほどなくして、ホームから電車の発車音がする
俺はそれを笑顔で聞きながら、あれは絶対来ると思いながら店を予約した、ちょっと高いけど静かでお洒落な店だ、料理はコースでいいとして飲み放題は外せないな、それとプレゼントも
姥神とは十年来の付き合いになるけど、そろそろ関係を進展させてもいいだろう
悪い男としては、あんないい女はほっとけないからな
クックックっと笑みが零れた
「それにしても専務には感謝だな……こんな天国へ飛ばしてくれたのだから……」
ちょっと痛かったけどな
まーそれは、給料を振り込んでくれているのでチャラにしてやろう
最初は振り込んでくれなかったから会社に怒鳴り込んだりしたけど、ちゃんと振り込まれるようになったって事は、俺のやった事は間違ってなかったのだろう……やったぜ!
そうだ!姥神を落としたら家族手当を申請しようかな
なんでこいつに家族が出来るんだ!と喚きそうだけど(ワラ)
うむ、それは見ものだな、その時は申請書を持って直接からかいに行ってやろうかな
今度もきっと、大騒ぎして迎えてくれるだろうから
「罪の重さ」キリッ