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かつて人であったモノ

作者: 笹 塔五郎
掲載日:2020/04/23

 少女は幼くして、森に捨てられた。

 そこがどこかも分からずに、けれど少女は『呪われた子』として、森の中に置き去りにされたのだ。

 少女の両親は貴族であったが、同時に古い風習を信じる者でもあった。

 ――灰色の髪に、赤い瞳は呪いの子。

 両親とはまるで違う髪質と、瞳の色は嫌われた。

 赤子の時に捨てなかったのがせめてもの良心とでも言いたいのか。

 それでも、少女はまだ五歳だ。

 ……けれど、愛情を受けずして育った少女に、恐怖はなかった。

 むしろ、日々向けられる家族や使用人からの冷たい視線から解放され、ようやく自由になったのだ。

 これから死ぬかもしれない……そういうことも、少女は理解している。

 けれど、怯えることはなかった。

 ガサガサと、近くから音が聞こえる。姿を現したのは、一匹の狼であった。

 それほど大きくはないけれど、尖った牙や爪は、少女を殺すにはたやすいだろう。


「いいよ」


 少女は、言葉の通じぬ狼にそう言い放つ。

 ――殺してもいいよ、という意味だ。

 幼い少女が言うには、あまりに重すぎる言葉。

 けれど、抵抗の意志を見せない少女は――狼にとって、ただの餌でしかない。


「ふむ、いいよとは面白いことを言う」

「っ!」


 不意に聞こえてきた声。

 狼は声に驚いたのか、慌てるように姿を消した。

 ……声に驚いたわけではない。

 少女も声の方角を振り返ると、そこには『化物』がいた。

 ――顔があるのか分からない。角のような物が生えていて、人の形はしている。

 けれど、体格は大人の男よりも圧倒的に大きい。

 化物は、少女に視線を下した。


「いいよとは、どういう意味だ? 殺してもいいと、言ったのか?」

「うん」

「肯定か。ふむ、面白い。お前は、何だ?」

「あなたも、誰?」


 化物の問いに対して、少女は問い返した。

 化物は少女の方を見て――いや、見ているのかも分からないが、身体を揺らして反応する。


「私か? 私は『賢者』だったモノ。『人捨て人』というものだ。さて、そう言うお前は『世捨て人』か?」

「わたしは……捨てられ人?」

「捨てられ人?」


 少女が首をかしげて言うのに対し、化物も首をかしげる。

 しばしの沈黙の後――化物は大きな声で笑い出した。


「ハハハハハハハハハハハハッ、捨てられ人とは面白いことを言う。そうか、お前は捨てられたのか」

「うん」

「ところで、お前はわたしが怖くないのか?」

「怖くないよ」

「ほう、面白い。何故?」

「何故って……」


 ――話がまともにできる分、むしろ化物の方が良心的なのかもしれない。 

 少女はそう思ってしまったのだ。


「いい人そうだから」


 だから、素直にそう答えた。


「いい人? 私が?」

「うん。違う?」

「私がこれからお前を殺すと言ってもか?」

「殺してくれるの?」


 少女は淡々とした口調で答える――すると、化物はまた身体を揺らして笑う。


「ハハハハハハッ、殺してくれる、ときたか。やはり面白いな。お前は殺すに惜しい存在と見た。ところで、行くあてはあるのか?」

「ない。捨てられたから」

「そうだったな。では、捨てられたのならば、私が拾っても問題ない」


 スッと化物が手を差し出す。

 少女の手を握るのではなく――小さな少女を手で包むことができるほどの、大きな手だ。

 白く長い指をしていて、掌は大きい。


「おじさんは、化物なの?」

「人を捨てたが故に、化物というのも正しいかもしれないな」

「そっか」

「お前もこうなりたいか?」

「化物になると、どうなるの?」

「さてな。こうなれるかはお前次第。あるいは私のようにはならないかもしれない」

「わたしにも、よく分からない」

「そうか、ならばそれでいい。一先ずは、ようこそ――『死の森』へ。歓迎するぞ、捨てられ人よ」


 こうして、少女は化物に拾われて、共に生活することになった。

 化物と共に暮らし、化物から技術を学び、化物から知識を得て――化物と一体化する。そうして、百年ほど経ったある日のことだ。


「こんなところで人と会うなんて思わなかった」

「……あなた、は?」


 森の中で――ケガをした少女に出くわした。

 真っ黒なローブに身を包んだ少女は、フードを脱ぎ去り答える。


「『人だったモノ』……『魔女』と名乗ることにしてる」


 少女と化物は――一人の魔女となったのだ。

こういう雰囲気のお話好きっていう短編。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわー すごく読みてぇ 連載ほしい! けど無理強いもできないなあ
[良い点] すごく好みです。ありがとうございました。
2020/04/23 22:57 退会済み
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