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夢の中の自由譚  作者: flaiy
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強くなってやる

 ──なんだよこれ……! 急に反応できなくなった……⁉︎


 二刀流を使うことで、あと少しで師匠に攻撃を当てられる、と言われた直後の打ち合いだ。継続して二刀流を使っているが、さっきまで多少なり反応できていた師匠の攻撃に、全く反応できなくなった。


 もちろん、俺は一切手を抜いていない。全力全開で挑んでいる。だというのに、師匠の動きがまるでさっきまでとは他人のように速くなった。


 師匠の地面を蹴るザッという音が聞こえた直後に、師匠の木刀が俺を打っている。木刀が風を切る音が聞こえた時には、もう手遅れ。こんなの、どうすればいいっていうんだよ。


「がっ!」


 対処法を考えていると、師匠の木刀が俺の喉を突いた。


 ──こんなの、目で見れたとしても反応できるわけがないだろ。例えここがゲームの中だとしても、これは現実で、俺は普通の高校生だぞ……!


 この理不尽と言いたくなる師匠の動きに、俺は僅かに苛立ちを覚えた。そして、右後方で僅かに音が聞こえた瞬間、俺は力任せに右手に持つ木刀を振るった。


「そこだあ!」


 木刀は確かに何かを捉えた。だが、直後その捉えたものは消え失せ、背中に衝撃が加わる。バランスを崩していた俺は、そのままうつ伏せに倒れた。


 ──あー、くそ……俺、ちょっと師匠を見縊みくびってたわ。これがきっと、師匠の本気……いや、多分まだ上がある。そんなの、俺がどうこうできるわけがない


「やっぱり、さすがにまだこのスピードは反応できないか。君ならもしや、と思ったけど、無理があったね」


 煽られている。そう感じた。


 だが、恐らく……これも、特訓の一環なのだろう。理不尽とも言える状況に陥っても、なお立ち上がり立ち向かう。その、精神の特訓。怒りに呑まれず、自分を制御する特訓。


 ゲームなのにマジになんなよ、とも思ったが……ちょうどいい。現実じゃきっと、俺はこんな状況に陥っても逃げるだけだろうから。体が動かないのを理由に、嫌なことから逃げて、忘れてしまうだろうか。


 ──今ここで、成長してやる


 俺は立ち上がり、師匠のいる方へと向きを変えて脱力する。一度、深呼吸。


「──嫌いじゃないよ、その意思」


 何度でもぶたれてやる、と言ったのは俺だ。なら、その意思を……俺は、貫く!



 どれだけ木刀で殴られただろうか。痛みがないから何ともないが、精神的にかなり疲れていた。


「今日はこの辺りで終わりでいいかな?」


「……いつもより二時間くらい早いですけど。何かあるんですか?」


「いや。君はそろそろテスト期間も詰めたほうがいい頃合いだろう? 少し早めに切り上げた方がいいと思ってね」


「……俺、学生だなんて一言も言ってないんですけど。まさか、俺のリアル調べたんですか?」


「いやいや、そんなことはないよ。でも、今日はここで切り上げたい。俺としても用事があってね、どのみちもう落ちなきゃなんだ」


「じゃあ最初からそれ言ってくださいよ……」


 目隠しを外すと、師匠が俺に何かを放り投げた。俺はそれをキャッチして、タップしてみる。アイテム名称は「転移封」とあり、その概要は「『転移〇〇』とこのアイテムを持って言うと、指定した街に転移する。この中に転移魔法が封じられている。」と書いてあった。


「これは?」


「それ使って帰りな、移動も面倒でしょ。まだ新品だから、二十回は使えるはずだから、自由に使ってくれればいいよ。じゃ」


 そう言い残して、師匠も同じアイテムで聞き覚えのない街へと消えていった。恐らく、俺がまだ解放していない先の街なのだろう。


 俺はしばらく師匠にもらったアイテムを眺める。そして、しばらくしてから、


「転移、『イルミネート』!」


 昨日アクアと共に到達した第三の街へと転移した。ほんの一秒足らず感覚がなくなったかと思うと、すぐに視界が開けて昨日一度だけ見た街へと移動していた。


「さてと。とりあえずどこか宿探すとするか」


 この街に来るのは二回目なのだが、昨日は街に入ってすぐにログアウトしたため、どこに宿があるのかなどは全然把握していなかった。マップもまだまっさらだ。


 実を言えばこのままログアウトしてもいいのだが、俺はこのままゲームの中で勉強をするつもりでいるため、やはり宿に向かった方がいい。ホームでやればいいのでは、と思うかもしれないが、俺のホームにはまだ何もなくて、勉強しようにも立ってしなければならないのだ。


 それに、ホームでの活動はまだ希へのメッセージを送るくらいしかしていないため、勝手がよく分からないでいた。それに対してNlOの中では、アクアに教えてもらったりもしたのでそれなりに使うことができる。だから、少なくとも今はこっちでやった方が効率としてもいいのだ。


「そろそろホームのアイテムも揃えた方がいいかな……椅子とか机くらい欲しいけど……」


 呻くものの、入手法も調べていないしかといって現金購入するのもあれだ。今はこの世界で事足りているから、後回しにすることにした。


「やっやっ宿屋はどこですのー」


 転移広場を離れ、辺りを見回しながら呑気に歌って歩く。実際、提出物は既に終わっていて、これからやるのはテスト前の苦手箇所復習だ。主に数学を主体にする予定である。


「やあ少年、楽しそうだね。いいことでもあった?」


「口調変えたのかい人族の娘よ」


「おっ、なんか異世界感あっていいねそれ」


 話しかけてきたのは白いフードを被った、フードの下にも純白の髪を持つアクアだった。異世界感とか言っているあたり、やはりこの人はオタクかそれに準じた何かなのだろう。俺と同類だ。類は友を呼ぶとはよく言ったものだと思う。


「宿屋探し? 安くていいところ知ってるけど、案内しようか?」


「マジで? それは助かる。ついでに、街のマップの提供をしてくれるとサージェルさんもっと助かっちゃうんだけど」


「えー、どうしよう……あ、そうだ。前屈みになって、上目遣いに……そうそう。それで、人差し指を立てて口元に寄せて、媚びるように──」


 俺はアクアの言う通りに、一つの指令の度に「ふむふむ」と頷きながらポーズを整えていく。


「お姉ちゃん、お願いって言って!」


 俺は、中学時代少し練習していた女声の感覚を呼び起こしながら──


『お姉ちゃん、お願い』


 言った瞬間、背筋に怖気が走った。僅かな吐き気すら覚えた。やばい、何やってんだ俺は……ちょっと道を踏み外しそうになったじゃないか。


「くぅ……やっぱ、妹っていいなあ……いや、この場合は弟なんだろうけど、見た目があれだから妹でいいよね……」


「何か盛り上がってるとこ悪いけど、早いうちに宿に連れて行ってくれませんかね……」


「オッケー。なんなら宿代も払っちゃうし勉強も教えたげる」


「はは、そりゃ願ったり叶ったりだ……」


 俺の擦り減った精神は、この後しばらく戻らなかった。お陰で、勉強もほとんど捗らなかった。

サージェル……道を踏み外さないでね。いくら顔立ちが可愛い系だからって、中身まで女の子に……そんなの……悪くないな

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