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夢の中の自由譚  作者: flaiy
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師匠との打ち合い

 体術スキルを獲得し、アクアとの冒険を終えた次の日──


 目隠しをしたサージェルは、木刀を持って全く同じ木刀を持った師匠と対峙していた。サージェルは木刀を正面に構えているが、師匠は木刀を持った右腕をだらんと下ろし、脱力していた。


「さて。最初は別に受け止められなくていい。俺はレックスにも勝てるくらい強いからね。だからといって、何もしないのはダメだ、ちゃんと俺の位置を把握して、せめて反応だけでもすること。じゃあ、始めようか」


「はい!」


 サージェルが小さく頷きながら返事をしたのに僅かに遅れて、師匠が地面を蹴った。しかし、次の瞬間にはサージェルの首筋を木刀が叩いていた。サージェルは、体の向きを変えることすらできていなかった。


「反応できていないよ。音の向きを感じ取り、俺の気配を察知するんだ」


 そう言う間にも、サージェルは師匠から様々な方向から攻撃を受けていた。何度も打たれて体が全方向にランダムに揺らぐ。師匠の攻撃は、ヒットアンドアウェイを基準にしているが、あまりに速すぎてサージェルの周りを回転しながら攻撃しているかのようだ。


 最中、師匠はサージェルの様子に違和感を感じていた。頭の上に表示されたHPゲージに異常状態のアイコンはなく、正常に減少しているためにバグではない。だと言うのに、サージェルは一切の反応を見せない。


「どうした、諦めたのかい?」


 そんな質問をしながらでも、師匠は攻撃の手を休めることはない。


 刹那──


「……!」


 平原に、カーン! と小気味のいい音が響いた。サージェルの木刀が師匠の木刀を受け止めていた。


「何もしていないと思ったが、どうやら見当違いだったようだね」


「そりゃそうですよ。俺はこれでも、論理派なんですから」


「じゃあ参考までに、どうやったのか聞かせてもらえるかな?」


「特別なことはしてないですよ。単に、音を聞いて、師匠の気配を感じて、そこに剣を移動させただけです……まあ、師匠の動きが速すぎてタイミング全然合いませんでしたけど……」


 師匠は表情には見せなかったが、内心で少し感心していた。サージェルの言うことを端的に換言すれば、攻撃する場所は分かっていたが、防御が間に合わなかった、と言うことなのだから。


 師匠は、自分の移動速度は拳銃とまでは言わないが、高速道路で最高速度で走る車程はあると自負している。実際に測ったこともあるから、確かなのだ。


 サージェルはそれに反応出来てはいなかったが、察知は出来ていたという。師匠は、察知するのすら最初は難しいだろうと推測していたため、少なからず驚いていた。


「やはり、君は教え甲斐がある。一度反応出来たなら、磨けばもっと止めれるだろうね」


「そうなるよう、頑張ります」


 サージェルはそういうと、一瞬緩んだ意識を再び引き締めた。師匠もそれを感じ取ったのか、サージェルから距離を取り僅かに眼光を鋭くした。


 ──さあて。さっきは四十回くらいで反応出来ていたけど、今回は何回で反応出来るかな?


 ちょっと楽しみに思いながら、師匠は地面を蹴る。


 一瞬でサージェルの背後に回り、体の向きを変える回転の最中、左下にある木刀を振り上げる。ここまで、地面を蹴ってからコンマ二秒ほどのこと。流石に反応出来ないだろう──師匠がそう思って木刀を振り切った。


 その剣先は、サージェルのふわりと空中に浮かんだ髪を叩いただけだった。つまり、空を切った。


「……いいね」


 木刀で受け止めるのは無理と判断したらしいサージェルは、体を傾けることで師匠の攻撃を躱していた。剣の打ち合い、という目的からは僅かにズレているが、自分の今いるレベルに応じた動きを自ら判断して行った、という点ではなかなかにいい評価ができよう。


 師匠は左前方へと進み、足捌きで瞬間的に重心の向きを変えて右へと跳躍。捻りによる横回転の勢いをつけ、サージェルの首筋へと木刀の横薙ぎを放つ。しかし、その攻撃もサージェルは屈んで躱した。


 師匠は着地する間もなく跳ね返るように木刀を突き出す。その刺突もサージェルは前方に飛んで、前回り受け身の要領で勢いそのまま立ち上がり、師匠の方へ向きを整える。その時には、既に師匠はサージェルの目の前にいた。そして、振り下ろしがサージェルの頭頂部へと吸い込まれ、躱すことも受け止めることもできず、ズガッという鈍い音を立てた。


 だが、いくら鈍い音がしようがこの世界に痛みは伴わない。サージェルは師匠の攻撃を受けることは想定の範囲内のようで、すぐに木刀を振り上げた。


 師匠が即座に距離を取ったため、サージェルのカウンターは当たらなかった。直後、師匠はサージェルの動きに目を見開いた。なんと、サージェルは師匠目掛けて直進したきたのだ。


 目で捉えることのできる師匠の方が有利なことは理解しているのだろう。サージェルの攻撃は単調かつ慎重で、師匠が捌くのにはなんら苦労もない。そして、サージェルの上段斬りを師匠は弾き、空きだらけのその体目掛けて木刀を──


 ──なんだ、妙に腰を落として……いや、これは


 カウンターをしようとしたが、師匠はサージェルの思惑を察知し、バックステップで後ろへと下がる。目の前を、サージェルの履くブーツが通り過ぎていった。


 サージェルは師匠が上に木刀を弾いた勢いを利用して、バク宙──そして、蹴りを放ったのだ。ただ、僅かに読みの早かった師匠が後ろへと下がったため、その蹴りは当たらなかった。


「だあっ!」


 勢いをつけすぎたサージェルは回転のしすぎで尻から着地した。


「予想外のことばかりしてくるね、君は。実に面白いけどさ」


「って」


 師匠が言いながらサージェルの頭頂部に軽く木刀を当てる。サージェルは目隠しの布を上へとあげて、鉢巻きのようにして視界を元に戻した。


「うっ……眩しい」


「すぐに慣れるさ。さて……俺の予想以上に成長が早くて、正直困惑しているよ。剣の打ち合いを特訓の最後にしようと思っていたけど……一週間ももたないかもね」


 サージェルは明るさに馴染ませるため細めていた目をいつも通りに開いて、視線を師匠に向けた。


「いや、師匠強すぎて一週間じゃ無理だと思いますけど……それに、さっきのも結構感覚でやってましたし」


「……論理派じゃないのかい?」


「時に論理派、時に感覚派。俺はハイブリッドなのです!」


 サージェルは胸を張ってそう言った。師匠は苦笑いを浮かべていたが、すぐに表情を戻した。


「でもまあ……感覚でできてるなら十分だと思うけどね。ちなみに、今君がやろうとしているのはね、レックスですら会得できなかったことなんだよ。あいつは強いけど、その強さは経験による勘でしかないからね。それに対して君が身に付けようとしているのは、技術──勘とは対極にあるものさ」


「……俺レックスってプレイヤーには会ったことないんですけど、どんな人なんですか?」


「そうだねぇ。言ってしまえば、現代に馴染んだ野生だね。もうあれだ、どっかの狩猟民族みたいに自然と馴染んでるみたいな奴さ。未来を見ているかの如く攻撃を予測し、思考が読めるかのように動きに合わせて攻撃をする……AIでしかないモンスターになってしまえば、それこそノーダメージで完クリする。ついでに言えば、このゲームの中であいつのHPを半分以上削れるのは、多分俺しかいない」


「……なんて言うか、知の師匠と武のレックス、みたいな感じですね」


「いやー、いい表現するね。まさにそんな感じさ、俺とあいつは。別のゲームじゃ俺が頭張ってギルマスやって、あいつはサブマスで戦場で暴れ回ってたなあ、いやー、懐かしい」


 サージェルは心の中で、この人とそのレックスが組んだら、多分バランスブレイカーすぎてそのゲームのプレイ人口減りそうだなあ、と呟いた。何せ、レックスは分からないが師匠だけでこの強さなのだ。この人と負けず劣らずの強さで、しかも対極な戦い方をするレックスが一緒になれば、勝てる者などいるのだろうか。


「でもまあ、君はいずれ俺もレックスも超えるよ。システムじゃない……本当の強さで、きっと超える」


「……システムがなかったら、俺なんてただの凡人未満ですよ。そんな、あの二刀流の人みたいなことできませんよ」


「どうだろうね。見た目はそれなりに似てると思うけど? 特にあの銃の世界でのアバターと」


「髪型だけでしょうが」


 師匠はそれもそうだね、と小さく答えた。


「そんじゃま、本気でやるとしますか」


「あれで本気じゃなかったのかよ!」


「俺の本気について来れたら、それこそレックスなんて目じゃないよ?」


「……おっしゃあやってやらあ! いくらでもぶってこい!」


 サージェルは叫び、その場で立ち上がって目隠しを下ろした。

やばい、学校始まる……宿題終わってねえ……

ん? なに小説書いてんだって? いやいや、これはストレス発散ってか、気晴らしですよあははー

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