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夢の中の自由譚  作者: flaiy
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アクアの気分はよく変わる

 二十秒のダメージエフェクト残留時間を終えて、やっと木への衝突による体前面の全体の赤い光が消滅した。そして、アクアにはエッチなことはなるべく言わないようにしようと心の中で誓った。


「……何も、あそこまでやらなくても」


「何か文句でも?」


「いえ、なんでもないです……」


 HPはなんと既に六割まで減っていた。一割半が落下によるダメージなので、残りの二割半はアクアの攻撃プラスアルファということになる。レベル差があるためにダメージ量は大きいので、これは抑えているのだろうか……


「にしても、天使ってホント防御固いね。結構本気でやったのにそんだけしか減らないんだ。DEFいくつ?」


「本気だったのかよ……防具合わせて多分百も行ってないんじゃないかな。あーあ、結構削れちゃったからモンスター斬りまくらないと!」


「……私それなりにSTR上げてるはずなんだけどなあ。やっぱ、天使の特性面倒だなあ、相手に回すと」


 俺の嫌味混じりの叫び声は無視をされた。


 しかし、先程から全然モンスターが現れる気配はない。


「さっきの麻痺猿、レベル低かったな……もしかしたら、粗方狩り尽くされた後かも」


「襲ってきたサラマン?」


「分からないけど、可能性はあると思う。サージェルのレベル的にここでの定点狩りがいいと思ったけど……移動した方がいいかもね」


「そりゃまたなんで?」


「残党がいるかもしれないし。それに、モンスターはいないし弱いしで、時間の無駄になるかも」


「……モンスターってレベル上がるの?」


「まあね。ヌシの話前したでしょ? アレ、大量にプレイヤーを倒してレベルが上がったか、レアポップかの二パターンの出現があるの。まあ、プレイヤーの方が基本的に勝つから、後者の方が多いと思うけど」


「ほへぇー」


 新たな知識を蓄えていると、アクアが唐突に一度手を叩いて、「しゃーない」と言いながら歩き始めた。置いていかれるのは流石に面倒なので、俺もすぐ後を追った。


「この森広いから、あんまり好きじゃないけどなあ……」


「空から行く? お姫様抱っこか抱えたら多分行けると思うけど」


「マ?」


「……キョウビ聞かねえな、それ」


「そのネタも随分古いアニメのセリフでしょ」


 十年以上前のJK用語を十年以上前のアニメの主人公の台詞で茶化しておいたところ、あっさりとネタをバラされてしまった。というか、アクアってもしかしたらアニメオタクだったりするのだろうか。前もある魔法少女ネタ言ってたし。


 そのことが若干気になっていたが、アクアが目を輝かせると頰を紅くするのを交互にするという、器用な謎の顔芸を始めた。どうやらこのことを聞くのはもう少し先になるかな、と思いながら、俺はこの疑問をとりあえず棚上げしておいた。


「その……お姫様抱っこ、されてみたい……」


 なるほど、そういうことか。


 目を輝かせていたのは、乙女心によるお姫様抱っこへの憧れ、顔を赤らめていたのは、そのことを言う恥じらいだろう。顔芸の理由が判明した。


「STR的に行けるか分からないけど、一応試してみるか」


「ちょっと、私そんなに重くないわよ!」


 「へいへい」と空返事をしながら、俺はアクアの横に立って腰を落とす。見様見真似のお姫様抱っこなのでできるかどうか微妙だったが、背中と腿裏を腕でしっかり支えて持ち上げると、案外行けた。筋力値の問題か少しふらつきもしたが、飛んでいてバランスを崩すなんてことはなさそうだ。


「ふわあぁ……これが、お姫様抱っこ……!」


「…………飛ぶぞ」


 重いな、と言いたくなったが、せっかく堪能しているようなので、雰囲気を壊すなんてことは、空気の読める俺はしなかった。実際、持ち上げれないほど重いわけでもなかった。左腕の方が重いのは、頭のせいだと思っておこう。


 深く腰を落とし、何度か翼を羽ばたかせて上昇への推力を得る。少し体が浮き始めたところで、十メートルジャンプさながら全力で地面を蹴った。


「ぴゃっ……!」


 アクアの小さな悲鳴が聞こえた一秒後には、森の天井を越えて俺達は上空に浮かんでいた。いつもより二倍以上の重さがあるからホバリングが結構忙しいが、まあなんとかなっている。少し気を抜いたら速攻リタイアだろうが。


「わぁ……!」


「あまり長時間持ちそうにないから、ちょっと急ぐぞ」


 念の為警告すると、数秒遅れてアクアがうんとうなずいた。


 アクアの了承を得たので、俺は全速力で飛ぶことにした。体を縮め前傾し、空気を蹴るようにして翼を強く打ち付ける。車とは言わないが、自転車が坂を降りる時くらいの速度はでているだろう。


 最初は怖かったのか目を閉じていたアクアは、恐る恐るといった感じだが、強い風が打ち付ける中でも目を開けた。すると、初めて新幹線に乗った子供のように、


「すご! はやーい!」


 どんどん流れていく下の景色に目を輝かせ、楽しそうに笑っていた。もちろん、俺にはそんな余裕はなかったが。


「あっ! 森抜けるよ!」


「このまま着地するから、衝撃に注意しろよ!」


「うん!」


 ホバリングしながら悠長に降りていく余裕はもうなく、俺は森の端を捉えると同時、僅かに進行方向を下に傾けた。森の端がどんどん近付き、それに加えて地面も近くなる。


 そして、遂に森を抜けた。


「ふっ!」


 森を抜けた先は足首まである草が生い茂っていた。地面まで残り数メートルのところで着地の姿勢に入り、翼を限界まで拡げて風での減速を催促する。僅かに減速したところで地面に足を着け、摩擦による減速も試みる。が、しかし。


「ぬわっ」


「おっとっと。ナイス着地、私」


 草に足を取られて、俺は顔面から思い切り地面へと倒れた。ついアクアを離してしまったが、どうやら慣性の法則でしばらく飛んでいるうちに体勢を整え、数歩蹈鞴(たたら)を踏んで、体操選手さながらの着地ポーズを決めていた。


「だぁっ! 今日は何回打ち付けられるんだ、俺は!」


「さあ、どうだろうね。今からまだあるかもよ?」


「痛くないけど、なんだかんだで怖いからもうごめんだ……」


 顔面へと猛スピードで何かが迫ってくるなど、恐怖でしかない。しかも、それが木や地面のような固いものなら尚更だ。


「あーもう、またダメージ喰らった……モンスターど──」


「ごめん、ちょっと静かにして」


 アクアは俺の口を塞ぎ、二度三度周囲を見回すや近くにあった岩の裏へと、まるで何かから隠れるように入り込んだ。


「ぷあっ。なんだよきゅ……」


「お願いだから、静かにして」


 口を塞いでいたアクアの手を退かし文句を言おうとしたが、アクアはどうやら本当に何かから隠れているようだった。岩の端からこっそりと覗くアクアの上から、俺もその視線の先を見やる。そこには、大剣を背中に携えた大男が、モンスターでも探しているのか、周囲を見回しながら立っていた。


「あれ、誰だ?」


「……ランキング十六位、エンドリッヒ」


「十六ってえと、アクアの一つ上か。強いの?」


「レベルで押し負けてるの。それに、魔法と短剣の私は、両手剣の脳筋とは相性が悪くて……それに関しては、まだいいの。ゲームのランキングなんだし、上がいることも理解してる。負けるのは悔しいけど、それも数値の世界なんだから仕方がない……」


「じゃあ、隠れる理由は他に?」


「……あいつ、何故か私のこと目の敵にするの。ことあるごとに突っ掛かってきて。公式の決闘ならまだ我慢するけど、こんなプライベートな時にあまり会いたくないの……」


「随分と嫌われたもんだな、あの男。お前、好かれてるんじゃねーの?」


「気持ち悪」


 隠すどころか、思い切り顔を青ざめて言った。軽く体を震わせていたし、余程あのエンドリッヒというプレイヤーが嫌なのだろう。


 ただ、俺もわざわざ勝ち目の薄い相手に突っ込んで行って、無駄にデスペナルティを受けるのもごめんだ。だから、ここはアクアに倣って隠れ通すことにした。


「もしかして、森のモンスターがいなかったのって」


「そっか、あいつが……チッ、ただでさえ嫌な奴なのに、こんな形で更に邪魔するなんて……」


「本性漏れてるぞー」


 数分後。エンドリッヒは俺らの視界から消えていった。森へと向かったので、俺達も少し焦って位置を変えたりもしたが、俺らの進む方向とは違ったことは僥倖だろう。


「やっとどっか行った……見てるだけでちょっと吐き気がするって、ちょっとやばいわね……で、どうする。この辺でちょっと狩る?」


「よっぽどだなあ……とりあえず、次の街を目指しながらモンスターを倒していきたい。体力も回復したいしな」


「そうね。その剣があれば回復できるし、じゃんじゃん狩っていこーう」


「おー」


 アクアはどこか気分が萎えたような口振りでそう言った。ただまあ、気分を戻そうと頑張っているようなので、俺も乗っておいた。


 この日、レベルこそ上がらなかったものの、片手剣スキルが熟練度百五十を突破した。更に、攻撃と同時に回復できる片手剣「ドレインソード」も手に入った。収穫としては、十分だろう。

ああ、もうすぐ夏休みが終わる……そして、宿題は終わらない!

一応半分はやってるんですよ? 量が多過ぎるんです、教師はもっとこう、他の教科から出る宿題のことも考慮して宿題を出して欲しいもんですね……いやまあ、一度習った範囲なんだから、ちゃちゃっとできて当たり前なのかもしれませんが……

挿絵はどうも、ログレスも宿題に手こずってるらしくて今しばらくかかるそうです。年内中には……! と呻いていました

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