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夢の中の自由譚  作者: flaiy
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天使の欠点

 ──と、意気込んだはいいものの、だ。


 今倒した猿以外に気配……というか、物音はせず。気合だけが空回りしそうな雰囲気が漂っていた。


「……大声出したから逃げられたか?」


 このゲームのモンスターが現実と同様、大きな音や声にビビって逃げるのかは全くもって知らない。しかし、もしその習性が反映されているなら、この近くにはもう猿のモンスター及びその他の奴らはいないだろう。


「しくじったか。しょうがない、アクアと合流……する前に、空から確認してみっか」


 地面を蹴ると同時に翼を動かす。鉛直下向きに起こった力で空へと飛び上がり、木の葉っぱや枝を避けて森の上空へと躍り出る。


 森は結構な広さがあり、ただでさえ遠くは見渡しにくいしグラフィックもレベルが低下するというのに、端はボヤけるくらい遠かった。


 こりゃ抜けるのも一苦労だなあ、と独りごちながら、下へと視線を動かす。髪を少し揺らす程度の微風が吹いているだけで、それ以外の変化は何もない。少なくとも、視覚情報の中にはモンスターなんかはいなかった。


「ったくぅ……仕方ない。アクア探すか」


 ホバリングしていた翼を羽ばたかせるスピードを落とし、少しずつ下降を始める。どうせモンスターはいないとゆっくりと森の木の葉の屋根に近付いていた時だ。不意に、首筋にピリッと電流のようなものが走り──体の自由が効かなくなった。まるで、現実の体がここに召喚されたかのように。


 ……いや、現実以上だ。体は足先から頭のてっぺんまで動かない。言葉を発することも、もちろん翼を動かすこともできない。むしろ、そのおかげで現実ではないと認識できたが、刺激で僅かに前傾した俺の体は、そのまま重力に則って垂直に頭から落下していった。


 普段なら悲鳴の一つは上がるだろう。そもそも、ジェットコースターどころか遊園地にすら行ったことのない俺だ、唐突にこんな絶叫アトラクションを用意されてしまえば、絶叫超えて失神してもおかしくない。


「どこ行ったのー」


 木へと差し掛かったはいいが、アニメよろしく木の枝に引っかかることもなく、俺は森の中へと戻った。その瞬間に聞こえたのが、今の声だ。その声は真下から聞こえて、そして真下から聞こえたということは──


 この後の展開は、その声の主が視界に入ったところで察した。この世界の神様は、どうやら俺に幸運と不運を同時に運んできてくれるらしい。お願い、そこは幸運だけにして。


「きゃっ」


 短い悲鳴も終わらぬまま、ズドーンッ! と豪快な音が森の中に響いた。


「いったぁ……もう、何なの?」


 恐らく、地面が腐葉土のように柔らかかったおかげだろう。視界の左上にある二本のHPゲージはともに上側の俺のは一割半、下側のアクアのは五分ほどしか減っていなかった。ありがとう腐葉土、これからは漢字のせいで臭そうとか言わないよ。


 腐葉土は置いといて。今現在、俺はアクアを下敷きにしていた。


 どうせ体は動かないと、アクアには悪いがそのまま原因を探ろうと視界をもう一度HPゲージに向ける。すると、上側の俺のHPゲージの上には、よく目にする稲妻のマークが横に三本並んだアイコンが付いていた。パッと見で今は分かる、麻痺だ。


「ちょ、どこに顔(うず)めて……!」


 しかし、俺の思考回路はそんなことは気にしていなかった。何せ、顔全体から柔らかい電気信号がまるでそこしか触覚がないかの如く、脳へと送り込まれているからだ。


 ──これが、二次元にしか起こらないというアニメの伝説……ラッキースケベッ!


 結構アニメ好きな俺は、この今体験していることにある種の感動を抱いていた。


「は、早く離れて……堪能してないで離れてよ!」


 無理です。体動きません。


「な、何とか言ったら……やっぱり何も言わないで、絶対くすぐったい!」


 無論、何も言いません。てか、何も言えません。


 どうやら、アクアはモンスターがいつ現れても対抗できるよう、正面で杖を両手で握っていたらしい。俺の胸あたりでゴツゴツした硬いものが、恐らくそれだ。そして、そこに杖があるということは、もちろん両手も下敷きにしている。


 アクアはパニックに陥っているのか、HPゲージに表示されているであろう麻痺アイコンに気付いていないらしい。気付いてくれないと俺が意図してこの状況を楽しんでいるみたいじゃないか。いや、胸の感触なんて初めて触るので楽しんでるかと言われれば楽しんでいるかもしれないけど。


「ね、ねぇ、早く退いて……聞いてる? 起きてる? 意識ある?」


 何やら別の心配をし始めた。俺が寝ているとか気絶しているとか、その辺の心配だろうか。もちろん、体固定垂直落下、またの名を紐なしバンジーという人生初の体験で多少気は飛びかけたが、今はしっかりと意識を保っている。というか、早く気付いて。


「……なるほど」


 時間が経って冷静になったのか、アクアはようやっと麻痺について気付いてくれたらしい。俺が退けないことを理解して、自分で押しやらなければならないことに気付いて、俺の体に下敷きになっている腕に力を込めて、俺を真上へと吹き飛ばした。ちょっと、扱いが酷いと思う。


「全く……」


 そう呟いたのをギリギリ聞き取った直後、再び垂直落下を始めた俺の真下にいたアクアの姿が消えた。どこに行ったのやらと思った瞬間、俺は体の前面全体から痺れるような刺激を味わった。


「この辺の木が低くて助かったわ。跳躍スキルも案外役に立つみたいだし……ほら、これ飲んで」


 瞬きもできない中、アクアに何か黄色の液体を飲まされた。全てが俺の喉奥へと消えた瞬間、アクアの持っていた瓶が消滅する。味はレモンを薄めたような、酸味の強い味だった。


 三秒ほど経つと、俺のHPゲージ上にあった麻痺アイコンが点滅し、消滅した。どうやら、麻痺を解除するポーションだったらしい。


「あ、あー……アメンボ赤いなあいうえお……はあ、治ったあ……ありがと、アクふぁ」


 声が出ることを確かめながら上体を起こす。アクアにレイを言っていたところ、最後がおかしくなったのは、アクアに両頬を真横に引っ張られたからだ。その顔は怒りか羞恥か、真っ赤になっている。


「……もう。ゲームの仕様上のものだから、何も言えないじゃない……この怒りと恥ずかしさはどこにやったらいいの……!」


 両方だったようだ。


「そうだな。ツンデレヒロインよろしく、ラッキースケベをした男の頰を思いっきりビンタとかがい──」


 ビタ──ンッ!


「はー、痛みがないのが残念だけど、ちょっとスッキリした」


 錯覚だろうか。頰がジリジリと熱いんだけど……。


 俺のHPを七分近く持って行ったビンタの痛み(?)を感じながら、俺は立ち上がった。頰には、紅葉もみじ型かつ色も紅葉こうようのような紅色のエフェクトが輝いていた。


「……麻痺って、怖いんだな」


 俺の場合は別の恐怖心もあったが。更に言えば、今のビンタに陥った経緯もあるが。


「ああ、それは天使だけの仕様。天使はデバフとか状態異常の効果が上がるの。麻痺だと効果時間が長かったり、それこそ完全に動けなくなったり……普通だったら左手と口は動くんだけどね。それでさっきの麻痺解除ポーションを使うの」


「ええ、天使ってそんな仕様もあったのか……逆に、バフの効果が上がったりは?」


「しない」


 いや、実際は一度聞いていた。初めて出会ったときにアクアから聞いたのだ。忘れかけていた天使の欠点に、俺は天使を選んだことを後悔した。……しかし、先程の体験の後では、その後悔も微々たるものだった。


「……柔らかかったなあ……フゴッ!」


 アクアに聞こえないよう呟いたはずなのに、背中から三トンの石で殴られたような衝撃が走った。吹っ飛んだ俺は、目の前の木に衝突した。

なんかもう、更新遅くてごめんなさい。数少ないこの小説を読んでくださっている方々に、頭を下げておきます……更新頻度上げれるよう、精進します。

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