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夢の中の自由譚  作者: flaiy
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修行開始

 それ以降希との会話もなく朝食を食べ終えた俺は、希にVRMを被せてもらい電源も入れてもらった。食器を持って「じゃ」と小さく言って出て行った希をヘッドギア越しに見送った俺は、すぐに目を閉じた。


 三秒経過し、ログインする。ちょうど三十分前に退出したばかりのホームを介して、NlOにログインする。時刻は八時だ。約束の時間までは一時間あるが、目的地が「ブリク」から少し離れていることもあり、少しレベル上げをしながら早めに向かった方が良さそうなので、ログイン早々俺は街を出た。


 ブリクの外は森が続いており、空を飛んでその上を通る。その最中、モンスターを見かけたらなるべく狩るようにした。お陰で、目的地に着く頃にはレベルが一つ上がっていた。


「レベル四か。とりあえず、アイテム整理しようかな……まだ二十分残ってるし」


 森の中に目を凝らし、安全飛行をしていたためか、目的地に着くには四十分を要した。まあ、それなりの収穫はあったし間に合っているので、なんら問題はない。


 倒したモンスターは、虫やケモノが中心だったためか、ドロップアイテムは外骨格や毛皮など、それらに準じた素材アイテムや、食材として使えそうな肉に加え、食えるのか微妙な虫モンスターの小型化したものまで入っていた。


 装備品もドロップしていたので、装備容量が二でSTR+10の指輪を装備しておいた。他の装備品はこれといって強そうなものはなく、街へ帰ればすぐに売るつもりだ。


 レスも二千ほど稼げたので、帰ってから武器を強化するのもアリかもしれない。武器強化で装備容量が増えるなんてことはないようなので、装備できるようになった時のために、チュートリアルでゲットした装備を強化するのもかりかもしれない。ただ、かなりのレスとレアな素材が必要そうなので、それはまた後に考えるとしよう。


 ストレージ内はまだ三分の一程度しか埋まってなかったので、何も捨てることなくアイテム一覧を閉じる。


 時刻はもうそろそろ九時になろうとしていた。


 メニューを閉じて周囲に意識を向けると、森の方から人影が見えた。目深にフードを被っている様から、昨日の名前不詳の師匠であると分かる。


「随分と早くから来ていたみたいだね」


「遅れるよりはマシだと思いますよ」


「それは違いない……それじゃあ、特訓を始めようか。とりあえず今から昼まで……昼食後も余裕があるなら、夕刻までもやっていいかもしれないが、どうかな?」


「まあ、特に予定もないですし、夕方までお願いします」


「了解した。さて、まずはこの世界……というより、仮想世界での戦い方を教えようか」


「……チュートリアルやったから、ある程度は分かりますけど」


 思ったことをそのまま口に出す。実際、俺はチュートリアルで騎士デオンから戦い方を学び、今日もここに来るまでにモンスターと数戦交えている。空中からの奇襲を仕掛けていたから基本的には優勢ばかりだったが、それでも初撃を耐えたやつからは攻撃もされた。それでもダメージは負っていないのだから、基礎はある程度身に付いていると自負しているのだが。


「確かに、俺も君の戦いは昨日見た。十分に基本は出来ていると思うよ……でも、仮想世界の戦い方は基本じゃダメだ。君が操っているのは人体じゃない。ポリゴンで構成されたアバターだ……確かに、ゲームの設定上限界はあるが、現実に比べるとその限界は人類の限界なんてとうにりょうしているだろう」


「つまり……現実に囚われた人間の戦い方をするなってこと? 天使としての戦い方……みたいな?」


「近からず遠からず……俺が言いたいのは、種族の問題じゃない。本来できないような戦い方をしろ、ということだ。この世界にはありがたいことに痛みはない。ならば、現実以上のパフォーマンスなんて、容易だと思わないか?」


「まあ、確かにそうですね。俺も天使として、空を飛んでますし……」


 実際、現実で人間に翼を付けたとして飛べるかといえば、可能性はゼロではないかもしれないが難しいだろう。それこそ、体重とかの関係で無理だと思う。


 それに、鳥は人間で言う手を失う代わりに翼を手に入れた。ならば、人間が手を残したまま翼を手に入れるのなど、フィクションでもない限り夢を見過ぎではないか。


 でも、この仮想世界では、物理法則はあるにしてもこうして空を飛べているし、手も翼もある。現実以上のパフォーマンスとやらを、容易に実現できるだろう。


「サージェル君。少し、十メートルほど上空に留まってくれないかな?」


「? いいですけど」


 言われた俺は、二枚の肩甲骨の間をほぼなくすような勢いで狭め、膝を曲げ腰を落とし、重心を真下に向ける。そして、折り曲げた体を伸ばすと同時、地面を蹴り狭めた肩甲骨を広げ翼を羽ばたかせる。


 ものの一秒もかからずに、俺は上空十メートルの位置にいた。その場で翼を一定間隔に打ち、ホバリングする。


 ここからでは師匠はかなり小さく見えた。数秒後のことだ。師匠はいつの間にか、俺の目の前にいた。


「うわわっ!」


 俺はあまりの出来事に一瞬ホバリングを忘れ、地面へと落ちそうになるがバランスが崩れたことですぐにホバリングを再開する。


 師匠の使っているアバターは紛うことなき人間だ。もちろん、翼など付いていない。だのに、どうやって上空十メートルの位置まで来たのか。まさか、跳んだなんて言わなければいいが。


 ホバリングのできない師匠は俺の目の前で俺の驚き顔に少し微笑むと、背中を下にして落下していく。空中でバク宙して、そのまま地面に着地した。着地が上手いのやらレベルが高いのやら分からないが、視界に表示されている師匠のHPはドットも減っていなかった。


 俺は翼を打つ間隔を広げ、ゆっくりと地面に着地した。


「……今の、ナンスカ?」


 異常な光景に驚いた俺は、聞いていいのか少し躊躇った後、片言になりながら尋ねた。もちろん、聞いたのはどうして人間アバターの師匠が地上十メートルの位置にいたのか、だ。


「もちろん、跳んだんだよ。ジャンプ。こう、ぴょーんって」


「んなわけあるか!」


 十メートルといえば、建物三階建てくらいだ。その高さをジャンプで跳ぶなど、アニメでもない限り無理だろう。いや、アニメでもそれは無理がある気がする。なんか加護とかあるなら別として。


「実際、ジャンプだよ? ほら……………………ね?」


 師匠は目の前でジャンプして、上空へと跳んでいった。地上からなので正確な高さは分からないが、多分十メートル近いだろう。スカートではなかったので、もちろん下着などは見えていない。着地した師匠は、自慢げに俺へと笑顔を向けた。


 今見たのは、確かにジャンプだった。背中から翼が生えたり、魔法を使った気配もない。装備の効果なら話は別だが、効果が発動する際はその効果元となる武器が発光する仕組みのはずだ、確か。発光現象は見られなかったし、師匠の技量によるもの……としか、もう考えられない。


「さて! 今から君にはこれを達成してもらいたいと思います!」


 いきなり元気な声を出すので、俺は数秒師匠が何を言ったのか理解できなかった……が、すぐに俺は理解した。師匠の言う「これ」が、「十メートルジャンプ」であると。


 そしてこの時察した。俺、めんどくさいことやることになったんじゃね? と。

遠くないうちに友達に頼んで挿絵を描いてもらおうかなと考えてます。本人はまだ下手だから、デカデカと載せないでと言ってるけど、デカデカと載せるつもりです。友達は@logless4のアカウントでTwitterやってるので、気になったらどうぞ見てみてください

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