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転生勇者の世界構築《ワールドゼロ》  作者: 石動流石
第1章 「新たな世界」
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1章1 「ありきたりな日常」

 ――――またいつもの夢だ。

 壮大な冒険の末に魔王を倒し、光に包まれて終わる。

 昔から何度も見ている夢だが、最近は特に頻度が多い。

 きっとこれは俺の前世だ!と中二病を爆発させていた頃もあった。

 だが、特に何の能力が発現することなく干支が二周している今となっては、繰り返し見る悪夢と何ら変わらない。


 とはいえそんな悪夢が俺に与えた影響は大きく、夢想がちな少年は現在、ゲームクリエイターとして働いている。


 ――――テテテテーテーテーテッテテー


 8時30分 スマホのアラームが俺を起こそうとする。

 最近は眠りが浅い事もあり、アラーム機能は十全に仕事ができていない。

 本当はもう少し仕事をさせてあげたいのだが、開発が佳境を迎えていることもあり、安眠の時はまだ少し先になりそうだ。


 冷蔵庫を開け、賞味期限当日のタマゴを使い切る。

 男らしいタマゴと醤油のみのシンプルなタマゴ焼きと昨日の晩に残った白飯が朝食だ。

 朝のニュースは今日も平和で、特に変わったこともない。

 梅雨入りをしたそうだが今日も晴れで、最近は梅雨の時期自体が感じられなくなってきている。



 ここで自己紹介をしておこう。

 俺は楠本礼次(くすもとれいじ)大卒でゲーム業界に入り、今年で3年目の24歳だ。

 京都でゲームプランナーとして働いており、今は新作アクションRPGのマップ班を任されている。

 小規模ではあるものの、それなりに名の通ったシリーズの派生作品である。

 その重責から残業が増えているという現状だ。


 ――――12位は獅子座のあなた。今日は色々とうまくいかない日かも。ラッキーカラーは青です。


 朝の占いによると、どうやら今日はあまり良くない日らしい。

 上司に小言を言われるのも面白くないため、早めに家を出ることにした。



 いつもより30分ほど早く会社に着いた。

 フレックス制度が導入されており、出社時間は厳密に決められていないが、マップチームの中で10時に出社するよう決めている。

 メールを起動し、昨日の内容を確認。その後プロジェクトで使用しているチャットツールにも目を通して朝の準備が終了した。

 今日はマップの会議の後にフィールドギミックの摺合せをして、配置の仕組みのとパラメータの相談もしないといけない。

 あとひと月でα1が終わる。

 期限は残り少ないが、それまでにやらなければいけないことが山積みだ。

 充実感を体にみなぎらせ、俺は作業を開始した。



 夕方になり、問題は起きた。

 新人プランナーの新田が明日のROMに入れ込む内容の仕様に全く手を付ておらず、新田の管理をしていた上松は体調不良で欠勤だという。

 仕様に手を付けられていないだけではなく、担当のデザイナーとプログラマーにも情報を共有していなかったため、1日はかかる仕事を明日の朝一までにゼロから仕上げることになってしまっている。

 どう考えても徹夜が確定するタイミングだが、α1直前の今のタイミングで先方への提出も怠れず、かといって疲弊している作業者に仕事を渡しすぎるのも危険な状態だった。


 デザイナーとプログラマーはアクションまわりを集中的に握っている担当者で、割りこみ作業に手が取られるリスクは致命的だった。

 せめて朝に把握していれば担当者を置き換えて対応することもできたが、今となっては後の祭り状態だ。

 俺は2人に頭を下げ、一緒に徹夜作業に突入した。



 何とか提出の目処が立ったところで、時刻は午前3時をまわっていた。

 今から家に帰り、風呂・仮眠をしてまたすぐに出社になる。

 こんな時間まで付き合って実装してくれたデザイナーとプログラマーには感謝しかない。


 2人に別れを告げ、一足先に会社を出た。

 すっかりと人気の途絶えた家路を少しふらついた足取りで帰る。


 突然視界が強烈な光に塗りつぶされる。

「へ?」


 しまった。

 考え事をしていたため赤信号に気付かず、今まさにトラックが目前に迫ってきている。

 時間が引き伸ばされたような感覚。

 ひきつったトラック運転手の顔、タイヤが跳ねあげる小石の一粒までよく見える。

 夢の中の自分なら、このスローモーションの世界を自由に動き回り、華麗にトラックを回避しただろう。

 現実の自分はというと、鉛のように重い空気が体に絡みつき、とてもではないが指一本動かすことができない。


 今俺が死んでも悲しむ相手は地元に残してきた両親と兄妹たちくらいか。

 こんなことなら彼女の一人でも作っておくべきだった。

 あー。会社の人は悲しんでくれるかも。

 いや、残った仕事が降りかかってくる悲しみが大きいだけだな。俺の死に対してじゃない気がする。

 俺が仕様書いてない部分の取りまとめ誰か引き継いでくれるかな……

 新田は担当者を回してちゃんとやっていけるだろうか。

 今日の占いも悪かったし、残業なんてせず早く帰ればよかった。

 そうすればもう少しだけ自分の人生を謳歌できたはずだ。


 ――――あぁ、もしも戻れるなら、残業せずに家に帰り、ピザでも食べながら映画を見たかったな。


 ゆっくりとした時間の中、右側から順にトラックに押しつぶされ、俺は絶命した。




 ――ユニークスキル【騎士回生】機動


 肉体の構成を変更―――――完了

 体組織を構築―――――――完了

 回生時刻を設定――――――完了

 スキルのアンロックを実行―――完了


 回生を実行します。


今日のキーワード

α1:ゲーム開発の区切りの一つ。代表的なものに「プリプロ」「α」「β」「マスター」などがある

ROM:昔は「ROM」と呼ばれる記憶媒体にゲームを保存していたが、現在はチェック用の特定バージョンという意味で使われることが多い。

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