97『不明』
感染者である母子が、ここから一番近い町【ラルケ】から乗り込んできた事で、応援を乞う事が出来なくなった警備隊は少ない人員で悪戦苦闘していた。
そこで、ここにいた冒険者11名が協力を申し出て、兵士の補助として3ヶ所の村に2人ずつ派遣されていった。
ラルケには使い魔である鳥魔獣を使った早文で一報を送っていたが、改めて早駆けの伝令を送る。
通常、馬車で5日かかるところを2日で駆ける強行軍である。
「それで、感染源はわかったのですか?」
警備隊の兵士を慰労するために招いた夕食の席で、ジェラルディンは警備隊長に聞いた。
「彼女らはラルケに住む母子で、母親の出身地隣国のポテンナの実家に娘を預けに行く途中だったそうです。
母親は裕福な商家に勤める事が決まって、娘の面倒を見れなくなったようです。
娘の具合が悪くなったのは昨日からで、それまでは普通にしていたそうです。
感染源に関しては心当たりがないとの一点張りで、本当にわかっていないようですね」
「テュバキュローシスの潜伏期間は7日ほど、感染初期は確か5日前後で中期の拡散期に移行するのだったかしら。
どちらにしても感染源はラルケにありそうですね。
途中の村は感染者がいなければ、警戒を解除して良いのではないかしら」
「ではやはり元凶はラルケですか……
町の代官が迅速に動いてくれれば良いのですが」
食事が不味くなる話だが、そんな事を言っていられる状況ではない。
そして食事が終わってもっと後味の悪い話になる。
「……それで、もう聴取は済んだのかしら?」
ジェラルディンの目つきが変わった事に、警備隊長は気づいた。
ここからはかなりシビアな話となる。
「ほぼ、終わりと言って差し支えありません。
今夜も食事だけ差し入れ、結界を閉じてあります。
もちろん見張りもつけてありますが」
「結界は寒さも防ぎますから、最初に用意した寝具で大丈夫でしょう。
……それで、これからどうなさるおつもり?」
「テュバキュローシスは治らない病気と聞いています。
隔離しておくしか対処がないのでしょう?」
「そうね。
私もそれほど詳しくないけど拡散期に入れば絶望的ね。
感染してすぐなら薬があると聞いた事があるけど、私は知らないわ。
それよりどうするの?
ここで隔離して死ぬのを待つのかしら?」
警備隊長がまだ子供だった頃、ある村でテュバキュローシスが流行った事があり、患者を村ごと焼き払って病が広がることを抑えた事があった。
おそらく今回も同じようなことになるのだろう。
「それはそうと私たち、領都の方に向かって出立したいと思っているのですが、いつ頃ならよろしいですか?」
警備隊長の顔つきが見るからに厳しくなった。




