95『警備隊到着』
ペン村から警備隊が駆けつけてきたのはもう昼が過ぎていて、野営場にいる者はその頃には自分たちが出来る事を済ませていた。
特に乗り合い馬車の御者は、例の母子の乗車してきた時から今朝までのことを詳しく思い出し、それをジェラルディンが箇条書きに書き出していた。
それと、広い野営場にはいくつものテントやタープ、ゲルが貼られ、昼食が振舞われている。
……人間、腹がへると感情の起伏が激しくなる。
反対に美味しい食べ物を与えられると、不満があってもそれは表面化し難くなる。
そのことがよくわかっているジェラルディンは、アイテムバッグの中の料理を惜しみなく振る舞い、この場に留め置かれている者たちの感情を操作した。
それに彼らは全員質の良い服を与えられ、ほとんどの者がそれまで着ていた服を手放した。
さすがに装備を焼却処分するものは少なかったが、それでも乗り合い馬車内で近くに座っていたある冒険者は、迷いなく燃え盛る焚き火に、自分の皮鎧一式を焼べていた。
今回の一報は発生したメルトカル国の中央より先にジェラルディンの祖国【ベアクマイス】の王宮にもたらされた。
そしてすぐに国境に報せが向かい、一時的にだが国境封鎖に近い状況に陥った。
だがこれも関所や各町村の入り口に鑑定士が配置される事で収まっていく。
メルトカルとベアクマイスの間には2つの国が横たわるが、テュバキュローシスとはそれだけの距離も無にしかねない、恐ろしい病気なのだ。
簡単な地図に乗り合い馬車の通ってきた道筋を書き込み、各停車地での乗り降りを書き込む。
この馬車はアナモント伯爵領の領都から、ジェラルディンたちが避けて通ってきたネルゾイン国の辺境伯領領都に向かう馬車だった。
「ではあの母子は領都からではなく、途中の町【ラルケ】から乗って来たのですね?」
ラルケとはこの野営場の先のワビ村からセチ村、ヌミ村、スユ村をはさんだ先にある中規模な町だ。
ここは町に隣接して大規模な鉱山があり、主に黒鉄と魔鉄を産する鉱山都市として発展してきた。
「そうです、お嬢様。
その後ヌミ村から1人乗車してきた客を除くと、後の6人は領都から、冒険者の皆さんはうちの馬車の護衛です」
「そう、よくお話してくれたわね。
このあとも何か思い出したら遠慮なく言って下さいね」
ため息を吐いて立ち上がったハンスは、朝から10才は老けて見える。
ジェラルディンもこめかみを揉みながら、今しがた到着しただろう警備隊長を待つことにした。
「ルディン殿、素早い初動感謝します」
「いえ、事が事でしたので独断で走らせて頂きました」
ペン村の警備隊長は、この場にジェラルディンがいたことに心底安堵していた。
彼はこの野営場に到着するとすぐに本部になっている、新しく張られたゲルに案内され、こうしてジェラルディンと対峙している。
そして今朝からの経過を聞き、ハンスからの説明を受けて、思わず座り込んでしまった。
「僭越ですがそちらにお願いしたいのは領都を含む、ラルケからこちらの村への警告と、患者への聞き取りです」
ジェラルディンの提案は彼の背に重くのしかかってくる。




