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9『憲兵詰所にて』

「お知り合いですか?」


「ああ、この町にも支店がある大店の主人だ。

 本店は領都ムグナスにある。

 今回はここに寄らず、おそらく王都に向かっていたんだな。

 おい、誰か知らせに行ってこい!」


 バジョナ百貨店は、この町では一二を争う大店だ。領都の本店は伯爵家の御用達でもある。


「嬢ちゃん、調書を取りたいので詰所の方に来てもらっていいかな」


 ジェラルディンは頷いて、兵士長の言葉に従った。そして部屋を出るとき黙礼する。

 商人のバジョナさん以外名も知らない人たちであるが、今朝方までは間違いなく生きていた人たちである。


「あ……

 私、あの場にあったものは全部持ってきたんです。だからあの人たちの遺品もあるかもしれない」


「嬢ちゃん、それは今回の場合すべて嬢ちゃんに権利がある。

 普通は競売にかけたり、買い戻したい遺族なんかに売ったりするんだが」


「あの、私そんなのいいです。

 遺族の方にすべてお渡しします」


 こういったところも小説に書かれていた通りだが、ジェラルディンは別に金に困っているわけではない。

 盗賊団の褒賞金はいただくつもりだが、持ち物には興味ないのだ。


「じゃあ、調書を取らせてもらう。

 まずここに名前や年齢など書いてもらえるか?」


 渡された紙には名前、年齢、住所など書く欄がある。

 ジェラルディンは用意されたペンを取るとまずは名前を書き始めた。

 ここで名前は、この旅に出てから考えていた “ ルディ ”にする。

 年齢は15才のままで、住所は……


「兵士長さん。

 私、今はもう住所が無いのです」


 この答え、兵士長は予想していた。

 彼女がニードル系の魔法で倒したと思われる、盗賊の骸を出した時から、訳ありの貴族だと確信していたのだ。

 ちなみに平民の憲兵としては、貴族とは『触らぬ神に祟りなし』である。


「ああ、そこは空けておいていいから。えっと、ルディちゃん?

 ギルドにも登録してないのかな?」


「はい」


「う〜ん、できればギルドに行って登録してもらいたいのだけど、無理にとは言わないよ。

 あとは盗賊団と遭遇した時の事だけど」


「あの時私は森で採取をしながら進んでいたのです。

 そうしたら人の話し声が聞こえてきて。悟られないように近づいて様子を窺ってみたら馬車を物色していたんです。

 そして気づいたんです。

 盗賊たちの足元には……」


「わかった、もういい。ルディ」


 ジェラルディンも嘘偽りなく話しているので、兵士長としても不審な部分は無い。

 そして少女の細腕では、完全に無力化するしか盗賊に対峙する事が出来なかっただろう。

 むしろ30人の盗賊を自身は無傷で討伐したことに驚愕してしまう。


「先ほど言った、冒険者さんたちの持ち物と、商人さんの馬車などもこちらに出していいですか?」


「冒険者たちのはいいが、バジョナ百貨店の分はちょっと待ってくれ。

 そろそろ駆けつけてくるはずなんだ」


 なるほど、馬車など大型のものに関してはジェラルディンが直接持っていった方が良いだろう。


 そして間も無く駆けつけてきたバジョナ百貨店の店長らによる愁嘆場が繰り広げられて、ジェラルディンはもう帰りたくなってしまった。


「……兵士長さん、もう宿もとらないといけない時間なので、とりあえず全部出していったら駄目ですか?」


 すでに陽は落ち、闇が迫っている。

 常識的に言って色々あった1日だったのだ。疲れもあるだろう。


「そうだな、悪いな。

 さっき俺が、要らぬことを言ったばかりに無駄な時間を使わせた」


「私にとってはそうでも、あの方たちにとっては違うでしょう?

 さっきの広場に馬車や他のものを出して、宿に向かいます」


「誰かに案内させよう。

 おい、ルディ嬢を【翔ける白馬亭】に案内して差し上げてくれ。

 ルディちゃん、明朝迎えに行かせるのでよろしくな」


 ジェラルディンも兵士長も、この夜とんでもない事が起きるとは、思ってもみなかった。


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