89『ギルド』
ギルドでの、警備隊への到着報告は昨日のうちに済んでいる。
今日は情報収集や素材の販売などを行う予定だ。
「それから主人様、この領にはダンジョンが2ヶ所あるそうです。
両方とも古くからあるダンジョンで、それぞれにはダンジョン都市が付属しているそうですよ」
因みにダンジョンの中は四季がない。
「治安さえ良ければ、ダンジョン都市で冬を越してもよいわね」
そうすればジェラルディンの作成するポーションや魔導具に需要があるだろう。
早速ジェラルディンは冒険者ギルドで情報を精査することにした。
その結果、1つのダンジョンがこれから向かおうとしていた領都方面にある事がわかり、ここも冬季の拠点候補にする。
その後、ジェラルディンはギルド専属鑑定士と各地に分布している素材や魔獣をレクチャーしてもらった。
それを地図……これはギルドで配布されている本当に簡単なものだがそれに書き込んでいく。
「ありがとうございます。
私たちはこの国出身ではないので、本当に助かりました」
その後、特殊な薬草や珍しい素材が存在するだろう “ 穴場 ”も教えてもらい、ジェラルディンはこれからの日々がとても楽しみになる。
このお礼には、回復力の高い特別なポーションを5本、進呈する事にした。
それを机の上に並べた瞬間、まだ瓶の傍にあった手をギュッと握られ、びっくりして悲鳴をあげそうになった。
依頼書を貼り出してあるボードの前にいたラドヤードが足早に近づいてくる。
「あ、いえ……申し訳ない。
このポーションはあなたが作られた、間違いないですね?」
「ええ……」
戸惑いを隠せないジェラルディンは、自分が何か失敗してしまったことを理解する。
「これを……いえ、他にもポーションをお持ちですか?
もしあれば、当方で買い取らせていただくことは可能でしょうか?」
魔力を注ぎ込んだ魔法薬……いや、錬金薬と言うべきだろうポーションは、言わずもがな貴族しか製造できない品だ。
こんな田舎では滅多にお目にかかれない、それもこれは上級ポーションだ。
「え……っと、こちらは情報料として差し上げます。
ポーションはそれなりにありますけど」
「是非、是非にお願いしたい!」
机の向こうから被さるように迫ってきた鑑定士の彼を、ラドヤードはその後ろ襟を持って引っ張った。
「おい、いいかげんにしろ。
主人様が怖がっているだろうが」
「あっ、ラド、いいのよ」
まるで子犬か子猫をぶら下げるように足が浮いた鑑定士の彼を取り成すジェラルディンに、渋々手を離したラドヤードは変わらず睨みつけている。
「ラド、これから商談をするの。
退屈だったら外に行ってる?」
「いえ、俺もここにいます」
ジェラルディンは頷き、アイテムバッグからポーションを取り出すのだった。
「結構な額になったわね」
需要と供給のバランスで価格は変わってくる。
今、この村では回復系の薬がまったく無い状況であった。
これから秋は深まり実りの季節を迎える。
冒険者だけでなく村人も森に入ることが増える時期、魔獣に襲われ怪我を負うことも多い。
ジェラルディンはポーションを使うほどではない怪我のために、魔力を注いでいない回復薬や傷薬も卸した。
その回復薬すらひと瓶銀貨5枚、ポーションに至っては下級ポーションで金貨3枚。
鑑定士の彼は、そのすべてをアイテムボックスに大事そうに仕舞っていた。




