87『晩餐』
ジェラルディンとラドヤードがゲルに入って、物珍しさに表に出てきていた兵士たちもある者は警備につき、ある者は詰所へと引き上げていった。
そしてあたりは暗くなり、門は固く閉ざされた。
兵士たちは日勤と夜勤が引き継ぎのため入り混じり、点呼が行われていたその時、今夜の珍客、ゲルの中から男が1人出てきた。
「少々お邪魔します。
実は、主人がもしよろしければ、夕餉を提供したいと仰っておりまして、兵士長殿いかがでしょうか」
期待に満ちた兵士たちの視線が一気に兵士長に突き刺さる。
これから家に帰る者はともかく、夜番の連中の夕餉は干し肉とパンという、旅の途中の冒険者と変わりないものだ。
「そ、そうか。
せっかくだからいただこうか」
周りの、期待に満ちた視線に負けた兵士長はジェラルディン側の申し入れを受け入れた。
途端に歓声があふれて非番となった兵士などははしゃぎまくる。
それを見たラドヤードは機嫌よく頷いた。
急ごしらえの屋外食堂が調えられ、兵士たちは期待に満ちている。
そこにラドヤードがアイテムバッグから次々と料理を出し始めた。
まずは熱々のままのシチューの入った大鍋。
角ウサギと根菜のブラウンシチューは侯爵家の厨房でていねいに作られている。
メインの肉料理はホロホロ鳥の山賊焼き。これは大量にあって兵士たちの目の色が変わった。
こんな時のために木皿に盛られた山賊焼きは大量にストックしてある。
ラドヤードは人数を見て次々と料理を出していく。
これで酒でも出せば最高なのだが、さすがにこの状況では問題がある。
そのかわりに柔らかな白パンやラドヤードのお勧めポテトサラダを提供し、これも大層喜ばれることになった。
料理が行き渡ったところでラドヤードもその場に加わった。
「主人は若い女性なので、こんな時間にゲルから出てくることは出来ない。
申し訳ないが俺で我慢してくれ」
どっと沸き起こる爆笑の渦。
実はジェラルディンはとっくに【隠れ家】に行ってしまってここにはいない。
かわりにラドヤードが情報収集がメインの接待をする。
「ほう、例のスタンピードについてはこちらでも聞いている。
よくまあそんな中、魔獣の森を突っ切ってやって来たな」
呆れとも感心とも感じられるもの言いで、ひとりの兵士が呟いた。
「スタンピード後だからかそれほど強い魔獣はいなかったな。
だがこちらに近づくとそれなりにはいた」
ザワリと空気が揺れた気がした。
兵士たちは魔獣の数が増えていることに神経質になる。
「でもちゃんと片付けてきたから安心してくれ。
うちの主人、ああ見えて凄いんだぜ」
誇らしげに笑うラドヤードの姿が、そこにあった。




