85『メルトカル』
「あのまま帰してよかったのですか?」
追うのを止められたラドヤードがジェラルディンに向けてそう言った。
「ええ、今はね。
さすがに元王子ですもの。
陛下の許可もなしにバッサリ出来ないわ。
それにこれからいくらでもチャンスはある」
厄介ごとは続くということだ。
「主人様、あなたは一体?」
「名前、知られちゃったわね。
あの馬鹿は、私が偽名を名乗っていることも知らないから」
それでも詳しく話すつもりのないジェラルディンは奥の部屋に行ってしまった。
ラドヤードは機会があれば調べてみようと思う。
3日目。
高級宿をチェックアウトして、2人は次の町に向かった。
メルトカルは国土が広いがそのほとんどが森林地帯で、僅かに林業が発展していたが産業と言うほどではない、そこを切り開き農作物を作っているが、国内の需要を賄うので精一杯、とても他国に輸出して利益を得るほどではなかった。
そんなメルトカルの主要産業は森林地域……いわゆる【魔獣の森】のすべてを冒険者を使い、魔獣や素材などを収集して販売する、冒険者にとっては誠に暮らしやすい国だった。
「主人様、ここでも家を借りられるのですか?」
「そうね。
もう少し旅をして、良いところがあったら探しましょう」
ここも悪くないのだが、国境が近すぎる。
ザイーダ辺境伯領から隣接するポメ男爵領に入ると、あたりの様子が一変した。
領地は、その領主の手腕によって富みも貧しくもなる。
この男爵領はどうやら後者のようだ。
「ここはあまり長く居たいところではないわね」
乗り合い馬車もまともに通っていない。本来ならば街道のはずなのに、この先の領地にある大きな町には迂回路を通って向かうらしい。
なので男爵領の町や村には金が落ちない……悪循環である。
「でも私たちにはこのくらいの方が良いわ。
あまり人がいない方がゆっくりできるもの」
驚いたというか、呆れたのは町や村のすぐ近くでも魔獣や盗賊が出ることだ。
魔獣はもちろん、盗賊も討伐したがあまりにもみすぼらしいので、アジトを急襲することはやめた。
ポメ男爵領では宿屋すらも信じられないので、森の中に入って野営したのだが、結果的に正解だったようだ。
後日、よその領地で聞いた話では、ポメ男爵領は別名 “ 追い剥ぎ領 ”と呼ばれているそうで、領民のほとんどが後ろ暗い仕事に手を染めている領だった。
7日間、ほぼ街道を通らず森の中を進んだジェラルディンたちはようやく隣の領、アナモント伯爵領に入ることが出来た。
領境は一目でわかる違いがある。
それは街道の状態だ。
今までの男爵領ではボコボコの土の道だったが、ここからはきれいに整備された石畳の道だ。
「これは凄いわね。
うちの国でも王都以外では中々ないわよ。
それにここは伯爵領の端っこでしょう?
……これほどの善政をしてらっしゃる領主殿に興味が湧いてきたわ」
少し楽しみになってきた。




