表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/314

80『エルフ』

 エルフと言う亜人が人間と相容れないわけ、それは【魔法】を使う種族であるということに限る。


 遥かなる古代【御使いの方々】は自分たちと自分たちの子孫の特別性を強調するため、既存の魔法種族であるエルフを弾圧し、迫害した。

 そしてある空間に閉じ込めて、決して出て来れないようにしたのだ。

 そんな彼らが種族を絶滅させなかったのは【御使いの方々】の余裕だったのだろう。

 ジェラルディンはそのエルフの女性に近づき、噛まされていた猿轡を取り去った。


「助けて下さい!」


 開口一番、挨拶も自己紹介もなく救助への懇願が飛び出し、ジェラルディンの眉が顰められる。

 この世界の王族や貴族にとって、エルフの印象はすこぶる悪い。

 ジェラルディンも嫌悪の感情を隠そうともせず、彼女に対峙していた。

 当然、拘束を解こうともせず観察している。


「その前に聞きたいことがあるのだけど……あなたはどうやってここに、いえ、この世界に来たの?」


 エルフが界渡りしている。

 これは由々しき事態である。


「わかりません。

 気づいたら見知らぬ森にいて、そのあとあの人たちに捕まって」


 訛りの強い言葉で一生懸命説明しようとしてくるエルフは、その目で拘束を解いて欲しいと訴えてくる。


「あなたの他にもエルフはいるの?」


「わかりません。

 私は会ったことないです」


 転移か召喚か。

 突発的な自然現象なのか故意の仕業なのか。

 どちらにしても存在してはならないものだ。


「あなたを捕らえたのはどんなものたち?」


「わかりません。

 皆、同じに見えて。でもここの人たちとは着ているものが違いました」


 突然移動した後捕獲したもの、おそらく買い取った商人、そして何故かその情報を得て隊商を襲い強奪した盗賊団。

 何者かの意図を感じて、ジェラルディンは唇を噛み締めた。


「あなたの住んでいたところで、今まであなたのように突然いなくなったエルフっているのかしら?」


「私の周りではあまり聞きませんが、そういう言い伝えはあります」


 今度こそジェラルディンの眉尻が吊り上がった。

 それは自分たちの社会に、最も忌むべきものたちが昔から紛れ込んでいると言うこと。

 それは看過できないことだ。


「その他に何か見聞きしたことはない?」


 エルフの女性は自分を捕らえるこの縄を解いてほしくて、必死に応えようとしている。


「私たちの里では段々とその人数が減っていて、滅んだ里も多いんです」


 ジェラルディンはその答えを聞きながら、このあとの事を考えて思案していた。


「どうかお願いします。

 ここから下ろしてもらえませんか」


「そうね、そのままでは辛いわよね」


 ようやく手足が自由になると、エルフの顔に微笑みが広がった。

 だが次の瞬間。


「う、ぁ?」


 自分の胸から生える黒い棘。

 それがこのエルフの女性の見た、生前最後の光景だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ