78『アジト強襲』
間を置かずアジト近くに転移したジェラルディンは、朝と同じように離れた場所から様子を見ていた。
今彼女の眼前では盗賊たちが宴の準備に大わらわである。
ずいぶんな人数のものがボアの丸焼きを作ったり、何かの肉を焼いたりしている。
気の早いものは今回略奪してきた木箱からワインを取り出し、瓶ごとラッパ飲みをしている。
賑やかな話し声や時々混ざる喧騒など、一目で今夜の移動はないことがわかる。
「……これなら大丈夫そうね。
今夜は少し眠れそうだわ」
ジェラルディンはゲルに転移した。
翌朝、朝霧がけむる中、ジェラルディンは三度アジトを望む森の影の中、盗賊たちの様子をジッと見ていた。
「見張りとして警戒しているのが5人、あと動き回っているのが……9人?そのほかはまだ眠っているようね」
昨夜宴が行われていた場所でそのまま寝入っている姿が、影の中からでも見て取れる。
初夏と言ってもこの季節、夜や朝方は冷える。
こんなところで寝て、風邪を引いたりしないのかとこの後のことを思えば頓珍漢な事を考えるジェラルディンだ。
「でもまあ……これを利用してサクッと終わらせましょう」
まずは見張りの元に影の棘が襲いかかる。
直前まで目視できないほど細かったそれは、見張りたちの直前で太くなり、間髪なしに彼らに突進した。
「!!」
「!?」
ほとんど声も出さずに棘に貫かれた彼は、その倒れ臥す音だけを残してその生涯を終えた。
だがその死は、盗賊団のアジトに侵入した襲撃者を仲間に知らせることによって無駄にならずに済んだ……はずだった。
「敵襲だーーっ!」
「みんな起きろー」
いくら酔っ払って眠っていたとしてもさすがに修羅道にその身を置くものたち。飛び起き、その手に得物を握って襲撃者を警戒する。
だがジェラルディンはそれを嘲笑うかのように、今度は影空間へと彼らを収納する。
一瞬で姿の消えた仲間の姿を探してあたりを見回す盗賊たちを、ジェラルディンはサクサク移動させていった。
その間およそ3分。
おそらく幹部であろう、アジトの建屋の中にいた者たちを除いた50人近くの盗賊の姿がきれいにその場から消えたのだ。
「あと8人くらい?
……1人だけ離れたところにいるみたいだけど、何かしら」
ジェラルディンはゆっくりと影の中を移動し、建屋の前までやってきた。
おあつらえ向きに3人が警戒しながらも出てきてあたりを見回している。
その中の1人、見るからに魔法士然としている男をジェラルディンはしばし観察していた。
「完全に察知されているわけではないようだけど、何となくは感じているのかしら。
ひどく警戒しているようだわ。
これからは魔法士最優先で始末した方がいいわね」
杖を掲げて何かをしようとしていた魔法士の身体に、突然棘が生える。
串刺しになった彼の姿に驚く暇もなく、あとの2人も棘の餌食となった。
「これからは警戒を一段上げた方が良いようね。
盗賊団の首領、どんな男かしら」
より一層深く影の中に潜り、ジェラルディンはアジトの中に入っていく。
今は真っ直ぐ、5人の人族がいる場所を目指した。
「お頭、周りが静かすぎます。
先ほど確かめに向かわせた連中の気配も消えました。
これは……」
傍にいた中性的な美貌の男が強弓を取り上げ立ち上がる。
そして足元をしげしげと見つめ、矢を番えた。




