77『アジト』
ジェラルディンの予想通りになった夜明け前、森の中簡易に作られた盗賊団のアジトを辛うじて望める位置で様子を探っていた。
「森の木を組んでアジトを作ってる……
ずいぶんと手が込んでるわね。
あら、何を始めたのかしら」
森の中、木を切り倒してぽっかりと空いた空間に10人ほどが集まり順番に何かをしている。
ジェラルディンがよく目を凝らして見るとどうやら、アイテムボックスから戦利品を取り出しているようだった。
「あら、遠くて良くわからないけど、外で選別を始めたのね。
もう少し近づきたいけど、危険は犯せないわね」
それでもジェラルディンは、そろりそろりと前へ進む。
この距離からは手元がよくわからないが、ひと抱えもある葛籠のようなものは確認できた。
それを何人もの盗賊がアジトの中に運んでいく。その他、外に出しっぱなしの木箱などもあり、ジェラルディンはしばらくの間その作業を見つめていた。
びっくりしたのは馬車がドンと出てきた時だ。
またそこから荷物を降ろして運ぶを繰り返す盗賊たちの勤勉さに感心しきりであった。
ラドヤードの待つゲルに戻ってきたのは、もう陽が昇りきり、外では兵士の動く気配が感じられる時間だった。
「主人様、お帰りなさい」
ジェラルディンの顔を見て、明らかにホッとするラドヤードに笑いかけると、ベッドに座り込んだ。
「さすがに疲れたわ。
でもあのまま放置はできないわね。
ひと休みしたらあちらに戻るから」
ラドヤードは手慣れた様子で紅茶を淹れた。
一緒にサンドイッチを出すと瞬時に手が伸ばされた。
「もっとしっかり召し上がりますか?」
「いえ、満腹になると眠たくなるのでこのくらいがちょうどいいわ。
ありがとう、ラド」
どんな時でもジェラルディンの仕草は美しい。
まるでお茶会に参加しているような所作で軽めのブランチを終えた。
「私の留守中、こちらはどうでした?」
「目論見通り肉を食わせて、その上ワインを飲ませて……
主人様は休んでいると言えばその言葉を信じて、一度もゲルの中を改めようとしませんでした」
「それは良かったこと。
で、警備隊は戻ってきているの?」
「いえ、まだです。
でも、何か動きがあったようですから様子を探って来ましょうか?」
「ええ、お願い」
「主人様、聞いてきました」
ゲルの入り口の布がまくられラドヤードが戻ってきた。
「警備隊は戻って来ず、連中も捕虜を連れてもうすぐ撤退するようです」
「そう、私たちはもう無罪放免してもらえるのかしら」
「できれば同行して欲しそうでしたが、主人様の体調が優れないと言っておきました。
我々だけを残して行く事を思案しておりましたが、捕虜の護送を優先したようです」
どちらにしてもこの後、またアジトに向かい、強襲するつもりだ。
昼下がり、盗賊団の斥候だった捕虜を護送している兵士3名は強い日射しの中のんびりと道行していた。
「ずいぶんと暑くなってきたなあ。
今年の夏も暑さが厳しくなりそうだ」
「そうだな、帰ったら水浴びするか」
捕虜は縄で頑丈に縛られ馬に乗せられている。
その周りに騎馬が1人、あと2人は徒歩だ。
目隠しされ猿轡を噛まされた捕虜は大人しく馬に揺られていたが、まだ諦めていない。
あの少女との遣り取りもあるし、仲間が助けに来る可能性だってあるのだ。
彼は真っ暗な視界の中、前向きに考えようとしていたその瞬間、首に何か冷たいものが通り抜ける感覚とともに、彼の意識はそこで途絶えた。
それと同時に兵士3名も襲撃を受けていた。
森の中から放たれた強弓の矢は、頭蓋骨も物の見事に貫いて、悲鳴ひとつ上げる間も無く彼らの命を刈り取っていった。




