76『襲撃後の惨状』
ラドヤードと3人の兵士が肉料理に舌鼓を打ちながら一杯やっていた頃、ジェラルディンは隣村に到着し、その顛末を監視していた。
「どうやら盗賊団はもう、襲撃を終えて逃亡したようね」
白黒の影の世界から覗いていてもわかる、村の凄惨な様子。
ここも御多分に洩れず、村人、商人、護衛の冒険者が皆殺しである。
「まあ……徹底しているわね。
ここまでするなんて、どんなお宝なのかしら」
ジェラルディンは素直に興味を膨らませる。
それはこれから盗賊団を追跡するテンションを激上げすることになった。
「では追いかけることにしましょうか。
警備隊の皆さんはお疲れ様でした」
移動する対象を捉える為に、探査の範囲を大きく広げる。
薄く広く広げていくと、移動する点を何ヶ所か見つける事ができた。
「これは……
追っ手を撹乱する為に分かれて逃げているのかしら。
それとも魔獣?
この距離ではまだ人か魔獣かの区別もつかないわ」
捕らえられている盗賊から聞き出した、凡その方向に向かって進みながら探査し続けるしかない。
ジェラルディンは影世界の中を短距離転移しながら盗賊団を追った。
ジェラルディンがいた村から向かった警備隊がそこに着いた時、目の前に広がっていたのは今まで見たこともない凄惨な現場であった。
「これは酷い」
誰かがそう呟いた。
基本、警備隊というのは関所を守る兵であって、滅多に争い事は起きない職場だ。
「生存者がいないか確認しろ!
その中で警備隊長はキビキビと命令を下していく。
この村は関所直前の村で、食料なども調達する馴染みの村人も多い訳で。
「イワン!ターシャ!」
「……ジャック」
「酷いことしやがる……」
あちこちで見知った村人の名が呼ばれている。
彼らは物言わぬ骸に成り果てていた。
「隊長! 村人全員の死亡が確認されました。
あいつら、小さい子供まで念入りにとどめを刺しています。
隊商の方はどんな構成だったのかわからないので、何とも言えませんが」
打ち壊された馬車の側で息絶えていた、商人たちと護衛の冒険者の遺体が一ヶ所に集められ、並べられていた。
この盗賊団はあらゆる意味で徹底していた。
皆殺し、略奪、破壊……
村人の持ち物までは手をつけていないようだがその分隊商の荷に関しては略奪の限りを尽くしている。
そして馬車は粉々、ご丁寧に馬まで殺していて、まるで追っ手の手に渡る事を恐れているようだった。
盗賊たちは身体強化の魔導具を身につけているのか、驚異的な速度で進んでいる。
今ジェラルディンはようやく絞った目標……総勢56名を追っていたが、そのスピードに音を上げそうになる。
「一体どこまで行くのかしら。
まさか一晩中なんて……あり得るのね」
しかしこの行軍の速度は異常である。
ジェラルディンはある可能性に至っていた。
「ひょっとして、一味に魔法士がいる?
あり得ない話ではないわね。
これは十分に気をつけてかからないと、足元をすくわれかねないわ」
あちら側も探査をかけているかもしれない。
影空間にいる以上探知される事はないが、何があるかわからない。
ジェラルディンは箱入りだったので、こういった知識を持ち合わせていないのだ。




