73『脱・魔の森祝いディナー?』
警備隊長と別れ、指示された場所にゲルを出した2人は早めの夕食にする事にした。
「主人様?」
今はその前に設えを調えている。
「あの人、絶対に邪魔しにやって来ると思うの。
ラドの寝床は後で出すから、ごめんなさいね」
敷物を敷き、ソファーやローテーブルを出した。
それからダイニングテーブルと椅子を出し携帯用簡易魔導ストーブや簡易魔導コンロを配置していく。
「つまらない言いがかりをつけられたけど、私たちはいつも通りでいましょう。
まずは【洗浄】」
これで森の中を歩いてきて汗ばんだ身体もすっきりする。
「さて、夕食のメニューはどうしましょう。
ラドは何かリクエストある?」
「……俺は出来れば、ゆで卵の入ったポテトサラダが食べたいです。
それと南瓜のスープが飲みたいです」
厳ついガタイに似合わず、ラドヤードは芋や南瓜系が好きだ。
もちろん肉はがっつり食べる。
「それと、うちの料理長が鶏を調理してくれたの。
今夜はそれを食べましょう」
食用花とベビーリーフのサラダはあっさりとした柑橘系ドレッシングで。
リクエストのポテトサラダはたっぷりボウルごとラドヤードの側に置いた。
「南瓜のポタージュスープだから、パンは黒パンがいいかしら?
それともバケットかカンパーニュ?」
「バケットをお願いします」
取り出されたバケットをカットするのはラドヤードの仕事だ。
その間にジェラルディンはスープの入った鍋をコンロにかけ、そして今夜のメイン、ローストチキンをテーブルの中央に出した。
「何か、今日はすごいですね」
まるで子供のように目を輝かせたラドヤードが早速鶏を切り分け始めた。
「一応、森から脱出記念と言うことで?」
ラドヤードのためにたっぷりとスープを掬い、自分のためにはそれなりに。
「詰め物のライスが良い加減ですね。
栗が美味そうだ」
普段は厳つくしかめられる事の多い目が、嬉しそうに細められている。
実はラドヤードは栗などの実も好物なのだ。
「松の実も入っているようね。
これは……棗椰子かしら」
滋養たっぷりの詰め物の入ったローストチキン。
そして2人は食事を始めた。
「この南瓜、甘みが強くて美味しいわ。ブイヨンとの加減が最高ね。
今度レシピを教えてもらいたいわ」
2人は料理に舌鼓を打つ。
特にラドヤードは凄い勢いで食べていた。
「ルディン殿、失礼する!」
和やかな夕食の場に突然現れた邪魔者は、先ほどの警備隊長だ。
ジェラルディンの許可もなく入ってきた男は目の前の状況に理解が追いつかない。
「何でしょうか?
私たちは今、食事中なのですが」
「お食事中申し訳ない。
実は先ほどの男が今、今夜隣の村を襲う計画があると白状したのです」
「これからなら間に合うかもしれませんね。
早く向かわれたらいかがかしら。
報告ありがとう」
ジェラルディンは、一旦皿に置いていたカトラリーを手に取り、食事を再開した。
「あの……」
「何かしら。
私は今、食事中なの。
用がなければ下がってるもらえないかしら」
もちろんジェラルディンには警備隊長の意図がわかりすぎるほどわかっている。
彼はおそらくジェラルディンたちに盗賊の討伐に手を貸して欲しいのだろう。
「……それは悪手というものではなくて?
あなたたちは私たちを疑っているのでしょう?
今回はここで監視されていた方が疑いが晴れそうでいいみたいだと思うのだけど」
警備隊長はぐうの音も出ない。




