71『ロンミリ村』
「待て!そこで止まれ!
おまえら何処から来た?!」
街道を、村の入り口の前を素通りしようとしていた変わった男女二人連れに、国境から派遣された警備兵が声をかけた。
ちなみに入り口にはもう一人警備兵が立っている。そして街道からは村の中は窺えなくなっていて、中がどうなっているのか、外からはわからなかった。
「俺たちは旅の冒険者です。
これから国境を越えてアンドロージェに向かうところなのですが……ここは国境じゃないですよね?」
警備兵たちが居るのは普通国境のいわゆる関所だ。
なので戸惑ったように言うラドヤードの芝居は信憑性があった。
その隣では年若い少女、ジェラルディンが腰のウエストポーチから地図を取り出し広げている。
「おそらくだけど、ここはこのどちらかの村だと思うの。
国境の関所としてはおかしいわ」
自分たちで話しはじめたジェラルディンたちに近づいてきた警備兵が地図を覗き込み、一つの村の上に人差し指を乗せた。
「ここだ。ロンミリ村……だったところだ」
「だった?」
「とりあえずあんたら、中に入ってくれ」
戸惑いを見せたジェラルディンがラドヤードを見上げる。
「言うことを聞いた方が良さそうですね」
ふたりは先導する警備兵のあとについて、村への入り口である簡単な門を通り過ぎた。
そして、目を瞠る。
「これは……」
どちらからともなく呟いた言葉に答えたのは、広場に張られた天幕から出てきた、警備兵より身なりの良い上級兵だ。
そして目の前に広がるのは無残に焼けた家々、そして一目で血痕だとわかる滲み。
「わざわざ来てもらってすまない。
少し話を聞かせてもらいたいのだが、良いだろうか?」
言葉は柔らかだが有無を言わせない雰囲気にジェラルディンは頷く。
そして上級兵に従った。
「貴殿らも見た通りこの村は襲撃を受けた。住民は皆殺しだ。
状況から盗賊に襲われたのだと見ている。襲撃を受けたのはおそらく4日前の夜。
貴殿らはその頃、どこにいた?」
「現場不在証明ですか?
残念ながら証明できるものはいませんね。
私たち、3ヶ月ほど前に起きたスタンピードの残党を追って魔の森に入り、そのあとアンドロージェに行くためにこちら側に出て来たのです」
これには上級兵も驚くしかない。
たしかにあのスタンピードの時はこちら側にも侵攻してくる可能性があるため非常招集がかかった。
幸いにも危惧された事態にはならなかったため安堵していたのだが。
「それはご苦労様でした。
でもそれだけであなたたちを解放できるほど甘くないのですよ」
「困ったわねぇ」
ジェラルディンは小首を傾げてラドヤードを見た。
「主人様、ここは警備長殿の指示に従い、一旦こちらに留まりましょう。
ただ、この場はよろしくないですね」
血溜まりが残るような場所にゲルは出せない。
それにまだここには焦げ臭い臭いが漂っている。
「これならまだ外の方がマシだ。
ご主人様を留め置くと言うならちゃんとした待遇を希望する」
ラドヤードの態度が変わった。
殺気ではないが威圧感がその身体から溢れ出した。
「ラド、隊長さんが困ってらしてよ。
およしなさい」
“ 貴族 ”だ。
警備兵を率いる隊長である彼は、この2人がお忍びの貴族とその護衛だということに気づいた。
これは大変由々しき問題だ。




