70『魔の森踏破』
スタンピードの終結宣言からおよそ3ヶ月が経った。
季節は春から夏に近づき、厳冬期の寒さが嘘のように暑さが近づいてくる季節となっている。
ジェラルディンとラドヤードは、自国と隣国アマタルタとの間に横たわる魔の森に沿うように南に向かって大回りをし、アマタルタを避けて、その東にある国アンドロージェを目指していた。
そしてようやく今、2人は3ヶ月ぶりに森から街道に出てきたのだ。
「主人様、今夜は久しぶりに宿に泊まれそうですね」
イパネルマで手に入れた地図によると、今ジェラルディンたちがいるのは、何者にもその支配を許さない魔の森とアマタルタの南側の国クニッツァーとの境となる街道上である。
この先宿場となる村が2つあって、その先にクニッツァーとアンドロージェの国境がある。
「そうね。
でもまあ、今までもずっとベッドで眠っていたけどね」
3ヶ月間、ジェラルディンは影空間の隠れ家か侯爵邸で休み、ラドヤードは野営とは思えないほど快適なゲルで夜を過ごしていた。
そうでなければ、普通に野営していたらそれだけで消耗して、ここまで来ることはできなかっただろう。
そしてジェラルディンがラドヤードが舌を巻くほど健脚だったのも大きかった。
しかしこれにはカラクリがあって、生活魔法の一種である【身体強化】のおかげであった。
「さて、そろそろ村のはずなのだけど……少し様子が、変ね」
ごく自然に探査するジェラルディンは首を捻った。
“ 村人 ”が入り口付近に固まっている。
「何かしら?」
「どうしました?」
「この村では旅人を出迎える習慣でもあるのかしら。
30〜40人近くが集まっているわ」
ラドヤードが眉をひそめて立ち止まった。そして今出てきたばかりの森にジェラルディンを押し返す。
「えっ?なに?」
「嫌な感じがします。
このまま森の中を通って村に近づき、俺が偵察してきます」
「わかったわ」
このあたりの “ 冒険者の勘 ”と言うのはジェラルディンにはよくわからない世界だ。
ここはラドヤードに任せる事にする。
気配を消したラドヤードの後ろから、影空間に潜んだジェラルディンが続いていく。
森の木々の間から村の入り口が見えるここまでやって来たが、ラドヤードの “ 勘 ”は嫌な方に当たっていた。
ラドヤードが合図するとジェラルディンが影の中からするりと出てきた。
影空間と現実世界では直接会話が出来ないため、ハンドサインのような合図が決めてあるのだ。
「兵士がいますね。どうしますか?
こちらに問題はありませんが、
痛くない腹を探られるかもしれません」
「でも国境は越えなきゃいけないわ。
……また魔の森に戻って、そこから越える手もあるけど」
ジェラルディンは地図を取り出した。
この大陸では魔の森(魔獣の森)はどこの国のものでもない。
なので魔の森からの越境は違法ではないのだ。
「一旦、北の方に戻って北東にずれて進めばクニッツァーを通らずにアンドロージェに入国できるわ」
ラドヤードに判断は任された。
熟考するラドヤードのためにジェラルディンはポットからハーブ茶を注いで渡す。
「ここは正攻法で行きましょうか。
なるべく面倒は避けて通りたいですが、そんなことを言っているとキリがないですからね」
斥候などもいないようなので、森を少し戻って再び街道に戻ったジェラルディンたちは、警戒を怠ることなく村に向かった。




