67『プレゼント』
「それはそうと陛下、ダンジョンの近くで魔獣が出没、これを討伐致しましたが、少々特別な魔獣ゆえ、検分して頂きたく思います」
「それほど珍しいものなのか?
中庭で足りるだろうか」
ジェラルディンは一瞬言葉に詰まった。
あの大きさを思い出して、答えを返す。
「いささか不十分では無いかと」
「何、それほどの大きさか。
よし、近衛の魔法練習場ではどうだ?」
ジェラルディンはその【魔法練習場】をよく知らないが、兵団の練習場なら問題ないだろうと思う。
「はい、承りました」
「では、早速参ろう」
王の手が触れた瞬間、ジェラルディンは共に転移していた。
「さあ、早く出してくれ」
夜間の練習場は、もちろん人影もなく、灯も皆無で月明かりしかない。
そこを【ライト】で明るく照らし……これは王が過剰なほどの魔力を込め、昼間のような明るさである。
この様子では異常を嗅ぎつけて、兵が駆けつけて来そうだ。
「では、出しますね」
ドンという音が聞こえてきそうな、そんな大きな姿を晒したのは、巨大な魔獣だった。
「これは……キメラか?!」
差し渡し15mはあるだろう巨体はドラゴンをベースにしていて、翼は不死鳥、頭はマンティコア、尾は先端に鰭があって水棲魔獣のものと思われる。
「このような組み合わせのキメラは初めて見たぞ。
本体のドラゴンも相当な強者だな」
もうとっくに死んでいるキメラに近づいて、王はその鱗にペタペタと手を触れている。
「陛下……いえ、伯父上。
そのキメラは差し上げますので、どうか明日にでもごゆっくりと」
「何?! この貴重な魔獣を私にくれると言うのか!!何たる僥倖。
だがこれほどのものだ。オークションにかければいかほどの値となる事か」
「それが面倒なのでよいのです。
ただ学者がサンプルを欲しがるかもしれませんね。
それから……このキメラは普通ではないそうですから、背後に陰謀などがあるかもしれません」
王はここでジェラルディンが、面倒を嫌って押し付けてきた事に気づいたが、何も言わないでおく。
多少の面倒など、このドラゴンキメラの価値の前には無きに等しい。
「それでも嬉しいよ。
ありがとう、ジェラルディン」
明る過ぎる光源に気づいた衛兵がこちらに向かって駆けてきた。
もうお遊びの時間は終わりだろう。
「では陛下。
私、今夜からしばらく侯爵邸に滞在しますの。
もし何かあればご連絡下さいませ」
優雅なカーテシーをしたまま、ジェラルディンは影の中に消えていった。
「……居るか?」
「はい、御前に」
「アルバートについての話は聞いたな?
疾く調べ上げて報告を上げるように。
まさかとは思うが他国との繋がりも考えて動いてくれ」
「はっ」
暗部の男が闇に溶け込むように消えていく。




