66『アルバート』
ジェラルディンはゲルに戻って一旦休憩を取ることにした。
元々スタンピードが始まってオーバーワークだったのだ。
質の良い睡眠と効果の高いポーションで、ここまで何とかやってきたが、すでに限界は近い。
そしてダンジョンの湧きはほとんど収まり、ラドヤードも傍に居るという油断があったのだろう、普段ではありえない失態を犯した。
「!! 誰かゲルの側に居る!」
身を休めていた長椅子から、ジェラルディンが飛び起き、ラドヤードは剣を手にする。
そして勢いよく入口の布を跳ね除けて飛び出したそこには、見覚えのある銀髪の青年が佇んでいた。
「アルバート様!」
素早く主人と侵入者の間に入ったラドヤードが剣を構える。
その殺気がジリジリと肌を焼くだろう。
「主人様、此奴は何者ですか?」
「私の元婚約者殿です。
今は一族から追放同然となっているはずですが……何の御用ですか?」
「ジェラルディン。
私は物知らずで愚かだった。
どうか今までの事は水に流して、婚約を結び直してくれないか。
この通りだ」
無駄にプライドの高いアルバートが膝をついた。
そのまま胸に手を当てて頭を下げる。
貴族として最上級の謝罪を行うアルバートを見て、ジェラルディンは驚きと共に嫌な予感がした。
「アルバート様、私たちの縁はあの時切れてしまったのです。
あの時まで、私はあなたを支えるつもりでいました。
それを台無しにしたのはあなたですのよ?」
「だが、しかしジェラルディン!」
「もうここからお立ち去りになって。
私、あなたがなさった事を知っておりますのよ?
……この一度だけ見逃します。
それが私の、最後の情けとして今すぐ消えてくださいませ。
さもなければ」
「さもなければ?」
「今すぐ罪人として捕縛致しますわ。
アルバート様、あなたにはご自分で陛下の前に出頭して頂きたいの」
「ジェラルディン……どうしても駄目か?」
「ええ、私たちの道はあの時を境に、別々に分かれてしまったのです」
「……そうか。でも私は諦めない」
そう言ったアルバートはふわりと浮き上がった。
そのまますべるように飛び去っていくアルバートを見て、ジェラルディンは溜息をついた。
「主人様、あの男は」
「このスタンピードを起こした、張本人よ」
「!! 何故逃したのです!」
「落ち着いて、ラド。
今回はあまりにも分が悪いわ。
あれでも、この国の貴族としては最高位に近い場所にいるものよ。
彼と対峙するのなら、今回の侵入はあまりにも拙かったの」
馬鹿で愚かだが、黒持ちではないとはいえ一応元王族だ。
例えば、今見た【飛行】だが、これも王族には多く出る魔法だ。
「でも次はないわ」
今回も夜半になってから現れたジェラルディンは、どこか疲れた顔をしていた。
「今回は無理をさせたね。
おかげでスタンピードも落ち着いた。
少しゆっくりしてくれれば良い」
「……今日、アルバート様にお会いしました」
「そうか」
「復縁を望んでらっしゃるようです」
「あれにとってはそれしかないだろうな。だが、もう済んだ話だ」




