64『国境の “ 壁 ”』
ダンジョンからの “ 湧き ”は続いていた。
だがそのすべてがジェラルディンの影空間に呑み込まれていくので、スタンピードへの供給は停止していた。
「ここはこのままでも大丈夫ね。
ではラド、行きましょう」
ゲルはそのままに、入り口には状況を記したメモを残して、ジェラルディンたちは森の奥に向かって出発した。
「ラドはこちら側の隣国アマタルタに行った事があるのかしら」
「いいえ、俺はもっと西の方の生まれで、冒険者としてもそちらの方で動いていたので、実は大陸の南東の方には奴隷になって初めて来たのです」
「そうだったの。
いえね、今アマタルタは色々きな臭いらしいの。
一説には軍を動かそうとしているという情報もあるわ」
だからこそジェラルディンは、魔獣の跋扈する魔境を挟んだ向こう側が気になるのだ。
もし魔の森と呼ばれている魔境から強力な魔獣がその数を減らしていたら、スタンピードが通った場所は恰好の侵略路となってしまう。
「国境付近にうまく魔獣を誘導して穴を作らないようにしなければ。
あの国も今は多方面に軍を派遣する余裕はないと思うけど、念には念を入れないとね」
では行きましょうか、と歩き始めたジェラルディンの背後を護るように付き従うラドヤード。
360°探索しているので危険はないのだが、その気遣いが心地よい。
彼の主人は深窓の令嬢とは思えないほど健脚であった。
今もかなりの速度で進んでいるのだが、一向に速度も落ちず、泣き言も言わない。
それにダンジョンを含め多方面に魔力を使用しているはずなのに、堪えている様子もない。
「今日はこのあたりで野営しましょう」
密生していた木々が少し拓けた場所で、ジェラルディンは立ち止まった。
ゲルを出すためにはそれなりの場所が必要なのだ。
「しかしいつ見ても便利なものですね」
冒険者にとって野営は常識だが、ゲルのように常識外れの魔導具は持ち得ない。
ラドヤードも以前はアイテムバッグにテントを常備していたが、それは一から組み立てる普通のものだ。
「これは私のお手製なのよ。
冒険者に売り出したら売れるかしら」
「もちろんです。
上位冒険者の容量の大きいアイテムバッグ持ちなら飛びつきますよ」
「じゃあ今度考えてみようかしら」
そう言って浮かべる笑顔は年相応なのだが、中身は大魔女だということをラドヤードは知っている。
意図的に魔獣を追い立てて国境に “ 壁 ”を作ったジェラルディンは、適当に魔獣を間引きながらダンジョン穴を目指していた。
「ラド、ちょっと止まってくれる?」
訝しげに眉間を寄せたジェラルディンが足を止めた。
「何かしら……
探索で引っかかったものが、今まで見た事のない反応を示している。
魔獣なのは確実なのだけど」
ここからは慎重に近づいていく。
ジェラルディンの背後を護りながら、ラドヤードも気配を探っている。
「主人様、これは俺も見たことは無いのですが……こういったスタンピードが起きた時のダンジョンは膨大な量の魔素を排出するのです。
そして稀にですが既存の魔獣が変質する事があって、そいつは格段に狂暴になります」
「それの可能性がある?」
「はい」
「それは、ちゃんと始末しておかなければならないわね」




