62『殲滅』
まずは一点突破。
ジェラルディンが湧きの中心点、ダンジョンに向かって “ 影の棘 ”が魔獣を屠っていく。と、同時に左右からクリスティアンとラドヤードがサポートし、ジェラルディンが取り囲まれないように前進していった。
たった3人が何千、何万の魔獣を屍に変えていたその頃、ようやくイパネルマの冒険者ギルドから派遣された冒険者が最前線の村の入り口に到着した。
そして自分たちの眼前に広がる景色に唖然とする。
「な、何なんだ、これは……」
足元に広がるゴブリンの屍、屍、屍。
しばらく行くと角ウサギも混じり始めるがその数と言えば脅威以外の何ものでもない。
「おい、一体これはどういう事なんだ?」
その時屍の向こうから、見覚えのある姿が駆けてくるのが見えた。
今回の指揮を執っている副ギルドマスターがその姿、ラドヤードに大声で声を掛ける。
「おい! この状況はどういう事だ!?」
「今、主人ともうひとりの御仁がダンジョンに向かって突撃している!
貴殿らは向こうから回り込んで来ないように魔獣を狩ってもらえないだろうか。
あと、おふたりはここに倒れ臥している魔獣の骸に関しては権利を主張しないと仰っている。
くれぐれも後は頼む」
“ 権利を主張しない ”と聞いた冒険者たちから歓声が上がる。
それは討伐の終了後、魔獣の素材を好きにして良いという事だ。
冒険者たちの士気が上がる様子を見て、ラドヤードはジェラルディンの元に戻るため踵を返した。
「では、宜しく頼む」
「応っ!!」
ほとんど休みなく、丸一日討伐していたジェラルディンに疲れが見え始めた時、ちょうどやって来た冒険者たちにその場を任せて、ジェラルディンは一旦休息に入った。
たった4時間ほどだが横になる事が出来る、貴重な時間だ。
そしてその間、クリスティアンとラドヤードは今までに増しての勢いで魔獣を屠っていく。
クリスティアンはまだ年若いが、父国王から受け継いだ攻撃魔法は強力だ。
ジェラルディンの唯一の攻撃魔法 “ 影の棘 ”はもちろん、彼は影を触手のようにも使う事が出来、今回はそれを利用して大規模殲滅戦を繰り広げている。
彼の広範囲殲滅魔法は【消却】だ。
ジェラルディンの場合は決めた範囲を切り取って影の中に移動させるのだが、クリスティアンは対象地域を丸ごと “ 消して ”しまうのだ。
今彼は影の触手を伸ばして魔獣たちを囲み、その中すべてを消し去っている。
ちなみにクリスティアンは、魔力の使用量が極端に増えるが、さらに強力な消滅魔法を使う事が出来る。
ジェラルディンたちがスタンピードと対峙して3日目。
ようやく王都方面から冒険者集団と、ジェラルディンも通過してきたハーベイト伯爵領やビュルシンク男爵領から第一陣の私兵団が到着し、今度は王都方面から殲滅戦が始まった。
ジェラルディン、クリスティアン、ラドヤードは変わらず、始点であるダンジョンに向かって魔獣を屠っていった。
「段々と魔獣の種類が変わって来たわね」
今はもうゴブリンの姿を見なくなった。スタンピードの先端部にいた魔獣は1ランク上の魔獣にとって代わり、今の主力はオークやコボルトになっている。
「この分ではすぐに今より強力な魔獣が出現するでしょう。
幸いこの程度なら冒険者でも対処出来ます。
お二方は今のうちに休憩した方がよろしいのでは?」
ラドヤードの言うことは尤もである。
来るべき上級魔獣との邂逅に備えて、ふたりは暫しの休憩に入ることにした。




