61『遭遇』
ジェラルディンは今、ラドヤードと共に馬を走らせていた。
王宮から戻ったジェラルディンは家の中に元からあったものを除くすべてのものを異空間収納にしまい込むと、鍵をカウンターの上に置いて仮初めの我が家を後にした。
ラドヤードも私物はすべてアイテムバッグに収められている。
「主人様、我々だけで出てきてしまって良かったのですか?」
「私たちだけでないと、色々拙いのよ。
私の戦い方は……見られるわけにはいかないもの」
ラドヤードも主人の魔法の特殊さには気づいていたが、元々この国の民ではない為王族の特殊性には疎い。
そもそも彼の祖国の王族は、すでに色持ちではなくなっていた。
実は昨今各国の王族は、それぞれの特性である【色】を存続させる事が出来ずに、古代から続いてきた能力を手放していた。
そして自国も、残された【黒持ち】の王族はわずか3人。
「主人様、もうすぐ話に聞いた、スタンピードの先端に行き当たると思います」
ほとんど休憩も取らず丸一日、ジェラルディンとラドヤードは街道を駆け抜け、今はすでに避難の済んだ村の入り口にいた。
「まずはここで迎え撃ちましょうか。
まだ多少時間がありそうね。
休憩しましょう」
ラドヤードは馬の世話をし、ジェラルディンは個別に包装した大振りのサンドイッチを取り出した。
2人は立ったまま食事を摂り、最後にポーションを飲んで再び馬に騎乗した。
「さあ、行くわよ」
古の魔導具を使って作られた人造ダンジョンから溢れる魔獣が、いくつかのグループに分かれて進行してくる。そのひとつの先端にようやく着いたジェラルディンは、いきなり影魔法を使い始めた。
魔獣たち自身の影から現れた【影の棘】が次々と魔獣を貫いていく。
広範囲で行われている惨状を尻目に、馬上のジェラルディンは次々と魔獣を屠っていった。
ラドヤードはわずかに取りこぼした魔獣をバスターソードで斬り殺していく。
最早作業と化した2人の連携で、この場の氾濫を押し返すのにさほど時間はかからなかった。
「ラド、どんどんいくわよ!
あなたはサイドからの攻撃に気をつけていて!」
まるで蠢く黒い蛇のような集団が一方的に屠られていく。
スタンピードの特徴でもある、最初は比較的弱い魔獣が湧いてくると言う例に従って、今ジェラルディンたちが相手にしているのはゴブリンやウルフ系が多い。
中には初級冒険者向けの角ウサギのような魔獣も混じっているが何と言ってもその数が多かった。
その屍を乗り越えながら、ジェラルディンとラドヤードは一歩一歩、ダンジョンへと近づいていく。
その時。
「姉様!」
聞き覚えのある、少年の高い声が聞こえた。
「え? クリスティアン様?」
上空をこちらに向かって降下してくるのは、黒髪黒瞳の従兄弟王子だ。
「どうなさったのです?
ここまでどうやってお出でになったのですか?」
「僕は【飛行】魔法が使えるから、父上の命を受けてすぐに発ちました。
それよりも姉様、手分けして片付けてしまいましょう」
ジェラルディンは、クリスティアンが来た事に違和感を感じていた。
たかがスタンピード、本来なら冒険者があたる案件のはずだ。
それが顔に出ていたのだろう。
「隣国に不穏な動きがあるのです。
こちらに手を取られるのは悪手以外の何ものでもないですから」
「連動しているのだと?」
「結果的にそうなった訳ですが」
本来スタンピードが起きた国は格段に国力が落ちるのだ。
その隙を突いて侵略してくるのは予測済みとも言える。
「わかりましたわ。
全力で討伐致しましょう」




