60『元凶』
「主人様、すぐにここから発ちましょう」
乱暴にドアを開け、飛び込んできたラドヤードに向かって姿を現したジェラルディンは、その勢いにタジタジである。
「まずは一体何があったのか説明してちょうだい。
逃げるにしてもそれからよ」
「わかりました。実は」
ラドヤードが冒険者ギルドで聞いて来た話に、ひとりでに震えが走る。
「スタンピート……
一番最近は遠国であったので、私は又聞きでしかないのだけど。
それ、今回の規模は? わかっているの?」
「一報とともにある程度は。
あまり状況は良ろしくありません」
ひと通り話を聞くと、ジェラルディンはラドヤードに私物をアイテムバッグに収納するように言い、影空間経由で王宮へと向かった。
突然現れた彼女に王宮は騒然となるが、すでにこちらにもスタンピートの情報を掴んでいるようだ。
「陛下」
「おお、ジェラルディン。
如何したのだ? このような時に」
「このご様子ではスタンピートの件、すでに聞き及んでいらっしゃるようですわね。
実はそれが起きたのはちょうど私が滞在している町の近くなのですが、少し腑に落ちない事があるのです。
行政府は何かご存知ではないかと思いまして」
国王は側近に目配せして、そして侍従が執務室のドアを閉めに行った。
「改めてジェラルディン、このような時だが会えて嬉しいよ。
……で、どこまで知っている?」
「私が知っているのは護衛が聞いてきた事だけです。
ただ、スタンピートとしては少々異例な事が多いとしか」
椅子の肘置きに腕を乗せて、その掌で目を覆った王が溜息した。
その隣で、ジェラルディンが幼い頃から見知っている宰相が顔色を悪くして俯いた。
「陛下? どうかなさいましたか?」
「ジェラルディンはこの城の宝物庫について、どのくらい知っている?」
「宝物庫でございますか?
さようでございますね、王家代々の宝物が収められているとしか」
ジェラルディンは突然飛躍した話題に思い至らず、ただ尋ねられた事に応えを返した。
対して国王の瞳には悔恨の色が見える。
「ジェラルディン、宝物庫には古代から伝わる魔導具の数々も収められていた。
その中には恐ろしい効果を発揮するものもあって……この度、それを持ち出した馬鹿がいる」
「まさか、あのスタンピートは人為的なのですか?!」
「そうだ。
ついさきほど発覚したのだが【魔獣発生】の魔導具が持ち出されていて、それはアルバートが犯人だと確認された」
「最悪」
ジェラルディンは心の中で思い切りアルバートに対して罵っていた。
ジェラルディンは基本、博愛主義ではない。懐に入れたものに対しては甘いが、それ以外は興味がない。
なので今回のスタンピートも極端に言えばラドヤードを連れて逃げるという選択もあったのだが……国王から話を聞いて一変した。
元婚約者アルバートが関わっていた。
いや “ 関わる ”と言うのは控え目な表現だろう。
この災厄の張本人と言うべきアルバートを許すことは出来ない。




