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55『帰宅』

 ほぼ10日ぶりに帰ってきた我が家で、ジェラルディンは大きく伸びをした。令嬢には相応しくない仕草だが、もう構わない。

 そして長い間、火を入れていなかった家は深々と冷え、もう身体を動かしていないふたりに寒さが襲いかかってきた。

 一階の魔導ストーブに着火され、駆け足で上がっていった二階の魔導ストーブにも火が入って途端に暖かな空気に変わっていく。


「ラドにはわがままを言って付き合ってもらって悪かったわね」


「いえ、俺も久しぶりで楽しかったです」


 ラドヤードの一人称がいつの間にか “ 俺 ”に変わっている。

 たったそれだけの事で主従の間に絆に近いものが見え隠れするようになったように見受けられる。


「ラドにはお礼に何か……お酒なんてどうかしら?」


 冒険者ギルドからの帰り、食堂に寄って夕食を済ませてきたのだが、ジェラルディンの護衛であるラドヤードは、一滴のアルコールも嗜まなかったのだ。

 だが、ここはもう家だ。

 内側から結界が張られているここには侵入の危険はない。


「過ぎたお酒は問題あるけど、寝酒くらいいいと思うの。

 それともひょっとして……お酒弱いのかしら?」


「いえ、大丈夫です」


「では、どんなお酒が良いかしら」


 異空間収納から、まずはグラスを取り出した。

 続いてボトルを並べていく。


「ブランデーがいいかしらね。

 家にあったのを適当に持って来たのよ。

 適量を守ってくれるならどれを飲んでくれても良いわ」


 平民でもその銘柄を知っているような、高価だが有名なブランデーやウィスキーが並べられていく。

 ラドヤードは慌てて主人を止めた。


「主人様、今日のところはこの一本で十分です。

 ありがとうございます」


 偶然にも芳醇なブランデーを手にしたラドヤードは慌てて階下に降りようとするが引き止められてしまう。


「【洗浄】

 これで多少はすっきりすると思うの」


 さすがに寝室に、たとえ奴隷と言えども男性を入れるわけにはいかない。

 当初は独り暮らしの予定だったので、間取りに気を使わなかったのが失敗であった。


「明日にでも湯屋に行って疲れを流してらっしゃい。

 私は明日は……そうね、起きるのが少し遅くなるかもしれないわ。

 朝食に何か、とりあえずサンドイッチを渡しておくわね」


 紅茶の入ったポットと水の入った水差し、バスケットいっぱいに入ったサンドイッチとりんごが5個。


「これだけあればお腹が膨れるでしょう?

 明朝はラドもゆっくりしたらいいわ。

 ではお休みなさい」


 色々あった初めての遠征?

 ラドヤードにとってはただ驚く事ばかりであったが、自らの主人の力の片鱗がうかがい知れて嬉しくもあった。


 こうして、主従の絆が強くなっていく。




 ジェラルディンはラドヤードを見送った後、部屋に鍵をかけた。

 そしてそのまま影の中に潜っていく。

 自身にも【洗浄】をかけ、貴族の令嬢らしいワンピースを身に付けて、懐かしい我が家に転移した。


「お嬢様!」


「ジェラルディン姫様!!」


 もう自室にはほとんど家具もない。

 ジェラルディンは使用人たちの使う休憩室に向かって歩いていると、こちらに向かってきた執事たちと鉢合わせしたのだ。


「ただいま。

 こんな夜分に悪いわね。

 少し手に入れたいものがあって戻って来たのよ」


 伯父である国王が、当主が不在の侯爵邸の現状維持を認めたためジェラルディンはこうしていつでも戻る事が出来る。領地の方も有能な代官がジェラルディンに代わって管理してくれているため、心配なかった。


「どのようなものがご入用でしょうか?」


「実は私、護衛をさせるために奴隷を買ったの。

 その彼の唯一の趣味の道具を調達しようと思ったのです。

 今居る町はもうすぐ雪に閉ざされて、外出がままならなくなるそうなの。

 私は影空間の隠れ家があるから問題ないけど、彼は退屈するでしょうから」


「わかりました。

 どのようなものを準備すれば良いですか?」


 傍迷惑な夜が始まった。


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