54『異空間収納の使い方』
笑顔で雪豹の骸の元に行ったジェラルディンはそそくさと異空間収納にしまい込む。
欲しかった雪豹の毛皮が手に入って、気分は急上昇していた。
「雪豹はね、貴重で中々手に入らないのよ。
私もずっと欲しかったの」
ラドヤードたち冒険者にとっては脅威以外の何ものでもない魔獣が、富裕層にとってはステータスになる事に改めて驚愕してしまう。
「ねえ、雪豹というのは縄張り意識が強いのかしら。
ここに居たということは、もうこの森にはいないという事になるの?」
「そうですね、その可能性が高いです。
魔獣という生物は概ねテリトリーを持っているものが多くて、群れを作る種以外は繁殖期以外は接触を避けますからね」
「そう、わかったわ。
これからも魔獣は、見つけ次第どんどん狩っていきましょう。
特に、今は多分見かけないでしょうけど蛇系の魔獣は優先して狩りたいと思います。
出来れば血も欲しいので、その場合は私が討伐しますわ。
それとバシリスクが欲しいのです」
一気にまくし立てたジェラルディンの情熱に、ラドヤードはたじたじだ。
「それは……薬作りに使われるのですか?」
「そうなの。
幾らかはストックもあるのですが、素材はいくらあっても良いですからね。
今回あの町でギルド登録をして、初めて知ったのですが状態異常に関する薬があまりにもお粗末で、アララートさんは私の作った薬を大変喜んで下さったの。
だから出来るだけ調薬しようと思っているのよ。あら?」
ジェラルディンの索敵に何か引っかかったようだ。
「今度はどんな魔獣かしら……
雪豹よりは小さいみたいだけど」
それほど足は早くないそれは、ジェラルディンたちには気づかないままこちらに向かって来ているようだ。
ガサガサと枝葉の擦れる音が近づいてくる。
ラドヤードがジェラルディンをその背中に庇って立った。
「グエモドガモスか」
ちょっと一度では覚えきれない名前の魔獣が姿を現し、ジェラルディンたちを敵認定したようだ。
このグエモドガモスは四つ足の熊にハリネズミの針状の毛が生えている、ジェラルディンには初見の魔獣だ。
「これも私に任せて下さい。
【対象捕捉、位置確定……収納】」
その場にいたはずのグエモドガモスの姿が一瞬で消え、ラドヤードは何が起きたのかわからず呆然としている。
「元々異空間収納には生き物は入れることが出来ない、これは知っているわね?
でも私には “ 入れる ”事が出来るのよ。でもね、異空間収納の中で生き物は生きていくことが出来ない。
私はそれを利用して魔獣を異空間収納に入れることで彼らを屠っているの」
ラドヤードにとってこの告白は、今まで生きてきた中で一番衝撃を受けたのではないのだろうか。
一般の常識を卓越した事実に言葉を失っていた。
結局ジェラルディンとラドヤードは森の最深部、所謂魔の森と呼ばれる地域まで足を伸ばし、そこから森林地区をぐるりと周るようにして採取と討伐を行って町に戻って来たのは、出発から9日目のことだった。
「ルディンさん!
何の連絡もなく10日近くも経って、どれほど心配したことか……」
語尾はほとんど聞き取れないほどかすれていて、彼が本当に心痛めていたことを証明していた。
「ごめんなさい。
ラドも一緒だったのでついつい足を伸ばしてしまって」
この厳冬期に約10日も野営しながら森を彷徨くなど狂気の沙汰だと怒鳴りたくもなるが、ジェラルディンが貴族だとわかっている彼は、きっと十分な魔導具を用意していたのだと自分に言い聞かせていた。
「そうそう、アララートさん。
先日私に声をかけてきた少女、あれから見ます?」
「いえ、ギルドには来ていませんし、そう言えば……見かけませんね」
「そう、やっぱり。
実は私たちが森に向かった初日、どうやら後を追ってきていたようなのです。それでちゃんと戻ったのか、気になって」
「まったく……」
アララートは呆れ果てたように目線を上に向けた。
どうやら心配しているというより、怒りを抑えているように見える。
「もし何かあったとしても自己責任で自業自得ですよ。
何しろ彼女はギルドに登録しているわけでもなく、苦情の対象でしたからね」
結局、捜索などは行われなかった。




