52『野営での夕食』
結局、一度結界を解いてもらいラドヤードはゲルの周りを見回りに行った。
その間ジェラルディンは夕食の支度をする。
今夜は野営の気分に浸りたくて、具だくさんのスープを作る事にする。
まずは根菜……かぶや人参、玉ねぎ、じゃがいもなどを小ぶりのさいの目に切り、バターで炒める。
鍋に野菜がひたひたになるくらいの水を加え、そこにあらかじめ作っておいたミートボールを入れしばらく煮る。
そして作り置きしていたベシャメルソースを加えてまた煮込んでいった。
そのほかのメニューは、まずはポテトサラダ。これは5年ほど前某国で開発された調味料【マヨネーズ】でマッシュポテトをほかの具材とあえたものだ。ちなみに今日の具材はきゅうりとハムとゆで卵だ。
あとは黒パン、野菜不足はオレンジでまかなうことにする。
「ラドは一体どこまで行ったのかしら……」
なかなか戻ってこないラドヤードに、心配はしないが少し戸惑う。
そうこうするうちに戻ってきたラドヤードは何となく機嫌が悪そうだ。
「主人様。例の女、まだ我々を追って来ています。
まだかなり離れていますが、後を追うのが得意なようで着実に近づいて来ています」
「そう、わかりました。
結界の中には入ってこれないし、放っておきましょう。
ちなみにいつ頃接触しそう?」
「このままでは夜半になるかと」
「とりあえず結界を元どおりにして夕食にしましょう。【洗浄】」
一日中森を探索して汚れただろう全身に生活魔法の【洗浄】をかけてやるとラドヤードの皮鎧や靴についた汚れもきれいになる。
「魔法って本当に便利なんですね」
「魔力量の無駄遣いにもなるから生活魔法はあまり使われないのよ。
私は攻撃魔法が少ないから使うけどね」
ラドヤードが同じパーティーで行動したことのある魔法士は、何というかとても変わり者だった。
下級貴族の4男だった彼は風魔法が得意で、平民に対しても偏見を持たない稀有な貴族だったが、同じ下級貴族の家に婿入りが決まり、パーティーを脱退していったのだ。
もし彼があのままいたら、ラドヤードが腕を失い奴隷落ちするような事はなかっただろう。
「ラドがいない間に支度しておいたの」
「ゲルに入った途端いい匂いがして……急に腹が減ってきました」
「うふふ、正直でよろしい。
では頂きましょうか」
すぐにテーブルにはスープやポテトサラダの皿が並び、ここが野営中とは思えないほどの品揃えだ。
ラドヤードはまず、今まで見たことのないポテトサラダから手をつけた。
「美味い! いや美味しいです!
これ、一体なんなんですか?!」
唾がかかりそうなくらい近づいたラドヤードが、ジェラルディンに問い詰める。
ジェラルディンはくすりと笑った。
「これは【マヨネーズ】と言う調味料であえたポテトサラダです。
美味しいでしょう?」
「はい、初めて食べました」
「この【マヨネーズ】と言う調味料は、生卵を材料としているのです。
だから貴族か限られた富裕層にしか広がらなかったのですよ」
なるほど、卵を生で食べる事はまず無い。ラドヤードもしっかりと熱を通したものしか食べたことがない。
「私は産みたての卵を手に入れられる立場にいて、出来たてを異空間収納で保管出来るからいつでも食べられますが、皆がそうだとは限りませんからね。【マヨネーズ】は野菜にかけると美味しいのですよ」
すっかりマヨネーズの虜となったラドヤードに、一番シンプルな食べ方を約束した。




