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5『アデレイドの暴言』

 話は少し遡る。


 ジェラルディンが大公邸を辞したあとも、今宵集った貴族たちの中では騒めきが収まらなかった。

 そんななか、事態を聞き及んだ大公が近寄ってくる。

 彼は、アルバートの大叔父にあたる。


「殿下、一体何をなさっているのだ?!」


「おお、大叔父上。

 このめでたき発表の場を与えて下さり、ありがとうございます」


「何をうつけた事を。

 バラデュール侯爵、君はこの件を把握していたのかね?」


「もちろんです、大公殿下。

 王太子殿下には当家の次女アデレイドを婚約者に選んで頂き、誠にありがたく思っております」


「ジェラルディン嬢はどうなる?」


「バラデュール家としては、婚約者が長女から次女に変わっただけの事。

 何も問題ありません」


 ニコニコと笑んでアデレイドを見る侯爵を、問題がないどころか大有りだろうと大公は呆れ果てる。

 この侯爵とアルテミシア姫との婚姻は、いささか訳ありだったのだがここまで酷いとは思わなかった。

 バラデュール侯爵は貴族の常識といったものに、まったく精通していないようだ。


「しかし貴公、ジェラルディン嬢は」


 そこでアデレイドが大公の言葉を遮った。

 王族に準ずる、貴族の序列としては侯爵家よりずっと上の大公に向かって行う事ではない。

 そして次に発した言葉に、今夜の招待客すべてが凍りつく。


「あんな、黒髪、黒い瞳の化け物、気持ち悪いだけですわ。

 あんなのと婚約させられていたアルバート様がお気の毒だわ」


 さすがにこの発言にはアルバートも父侯爵も顔色を変える。

 ここにいる貴族たち……バラデュール侯爵の妻と娘以外は、現在の国王が黒髪、黒い瞳だと知っている。

 それどころか建国から今まで黒髪、黒い瞳を持たない王が即位した例はないのだ。


「ア、アデレイド、止めろ」


 アルバートは国王一家の中では母親に似て、銀髪、翠の瞳だ。

 他の王族に会った事のないアデレイドは、もはや自分が今貶している容貌が王族の特徴だとは夢にも思っていなかった。

 だが、その口から出た言葉は取り消せない。

 その傍らでアルバートが狼狽え、大公が目に見えて激怒している様にも気づく事なく、その口は滑り続ける。


「邸でも部屋に閉じこもって出てこない、学院に行く時も馬車は別々、学院ではお高くとまって馬鹿みたい。

 みんな、あの黒尽くめの辛気臭い女に辟易してるんだわ」


 馬鹿なのはアデレイドの方である。

 片や、現王の姪であるジェラルディンと、平民出身の母を持つアデレイドでは血統が違う。侯爵家が2人を一緒に馬車に乗せて通学させるなど不敬も甚だしい。

 そして何よりも、ここは大公家での舞踏会の最中、それも大公の御前である。


「慎みのない、よく回る口を持つ令嬢だな」


 これは大公からの直接の、侯爵への非難である。

 本来大公がいるこの場で、アデレイドが自由に話す事は許されていない。

 父侯爵はさらに顔色を悪くし、何が悪いのかわからない夫人は困惑していた。


「まあ良い。

 それとアルバート、先ほど言われたのは誠なのか?

 ジェラルディンとの婚約を破棄し、そこの娘と婚約すると言うのは?」


「もちろんです。

 私たちは愛し合っているんです。

 元々ジェラルディンとは王家とバラデュール侯爵家との政略的婚約でしょう?

 それならアデレイドと婚姻しても、問題ないのでは?」


 大公は呆れ果てた。

 問題ない訳がない。それもアルバートに大有りである。


「まあ、おまえがそう言うのなら良かろう。

 ただ、今夜の事はすでに陛下のお耳に入っているだろう事は理解しているな?」


 大公の言葉遣いが変わった事に、気づいたものも出てきた。そしてそれが何を意味する事なのかも。


「アルバート、現時点でおまえの王位継承権は失われた。

 これからの事は追って沙汰を待て」


「それは!?一体どう言う事なのですか!」


「そうよ!

 どうしてアルバートの王位継承権がなくなるのよ!」


 アデレイドの物言いはまったく貴族の令嬢のものではない。

 所詮は平民の庶子の付け焼き刃であった。


「己が黒を持たないもの、だと考える事だな」


 そこまで言われても意味がわからない一行を無視して、大公は彼らの前から立ち去った。

 その後、何かに気づいた侯爵が妻と娘を引き摺るようにして馬車に駆け込んで行く。

 そして這々の体でたどり着いた侯爵邸でジェラルディンの部屋に駆け込むと、そこは何もないがらんどうな空間だった。


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