49『ギルドでの出来事』
「私は影の中を移動できるのよ。
詳しいことはおいおい話すけど、この能力を使ってひとり旅をしてきたわけ」
なんという恐ろしい能力だろう。
この力を使えば気配すら悟らせずに背後から襲いかかることが可能なのだ。
「だからダンジョンも問題ないのよ?」
「わかりました。
私の防具が出来上がり次第、お供致します。至らぬことを申し、謝罪致します」
主人は得物を持つような手をしていない。どれほどの魔法を使うのか、想像しただけでも怖気を震う。
二日後、ジェラルディンとラドヤードの姿が、いつものようにギルドにあった。
先日の預かり証と引き換えに代金を受け取り、依頼書を見る。
このあたりは慣れたラドヤードに任せて、ジェラルディンはテーブルについてお茶を飲んでいた。
その手にはギルドから借りた、このあたり一帯に分布する魔獣や薬草などが記された本がある。
それを簡単にメモしていると、紙面に影がさした。
「ラド?」
ジェラルディンが顔をあげると見知らぬ少女が佇んでいる。
それに気づいたラドヤードが素早く近づいてきて、ジェラルディンの前に立ちはだかった。
「何用だ?」
「あの! 私をあなたたちのパーティーに入れて下さい」
「はあ? 何を世迷いごとを言っているのかしら?」
ジェラルディンはこの展開についていけない。
ラドヤードはと言えば、良くある事だと冷たい目で少女を見ている。
「雑用でも荷物持ちでもなんでもします!だからパーティーに入れて下さい」
騒ぎに気づいたアララートがカウンターの向こうから出てきて少女を引き離す。
他の職員もやってきて少女をギルドの外に連れ出していった。
「何ですの? あれ」
戸惑っているうちに終わってしまった事に、ジェラルディンは疑問しかない。元々冒険者というものに慣れておらず、その詳しい生活も知らないことが多いのだ。
今の少女の行動も、ジェラルディンが知らない習慣か何かなのかと考えこんでいたのだ。
「主人様、おそらくアレは【寄生】です」
「【寄生】?」
「ルディンさん、申し訳ない。
あの手のものが入り込まないよう気をつけていたのですが」
アララートによると、ああいった冒険者登録もできない輩が、ジェラルディンのような人が良さそうで富裕層出身のものに言葉巧みに取り入り、依頼に同行し分け前をもらう事を【寄生】と言うのだそうだ。
「まあ、あのものは冒険者ではないのですか?」
この国の冒険者ギルドでの登録はある意味厳しい。
ジェラルディンも目にしてきた事だが、身分証目当てでは決して発行されないものなのだ。
「はい、ああいったものがそれなりに居るのです。
ルディンさんは目をつけられ易いと思いますので注意して下さい」
アララートに向かってラドヤードが頷いた。
ジェラルディンだけだったら押し切られてしまったかもしれないと思われているようだ。
見た目は儚い美少女だし、実際の年齢よりは幼く見える。
だがジェラルディンは貴族だ。
生まれ持った価値観は平民には推し量る事が出来ないようだ。
その気になればどこまでも非情になれるジェラルディンを、この町の人間は誰も知らない。




