47『再登録』
朝の一番忙しい時間が過ぎ、昼まではあと少し、といった時にドアが開いて、ここ数日見慣れた少女が現れた。
否、その後ろに、体格の良い冒険者たちを見慣れたアララートでさえ一瞬驚愕するような大男が立っていた。
「おはようございます」
にこやかに朝の挨拶をしてくるジェラルディンにアララートは慌てて挨拶を返す。
「おはようございます、ルディンさん」
ジェラルディンが大男を伴って近づいてくる。そして間近までやってきたジェラルディンは声をひそめて話しかけた。
「昨日、あれから奴隷商会で買った奴隷です。ラドヤードと名付けました。
今日はこのラドヤードの事でお話があるのですが、どこか落ち着いてお話できる場所に移れませんか?」
「ではこちらへ」
最早慣れた通路を通って、職員が個別に冒険者と話すための部屋に招き入れた。
「さて、お話とは?」
「ご存知かもしれませんが、このラドヤードは以前別の名で冒険者をしていました。
奴隷になったときに登録を抹消されているそうなのですが、改めて登録する事は可能ですか?」
冒険者ギルド側からすれば、これはよくある話だった。
何故なら奴隷は護衛やパーティー要員として買う事が多く、その場合はギルドに登録した方がよいからだ。
奴隷落ちした事でそれまでの登録は抹消されるが、再登録は可能である。
「もちろん可能です。
今日はそちらの奴隷の登録にいらっしゃったのですね?
ただ、また最下級からのスタートになりますが、承知願えますよね?」
「問題ありません。
では手続きをお願いします」
ジェラルディン自身も昨日もらったばかりのギルドカードである。
それは本来ならHランクなのだが、初日に渡したポーション類が実績となって、Fランクとなっていた。
「しかし、よい奴隷を手に入れられましたね」
ゴロツキや優男を威圧するには十分な容貌である。
「奴隷の値段の相場というのはわかりませんが、買い得だったのは間違いないと思います」
ジェラルディンの後ろに立ったままいたラドヤードは、無意識に左の肘に触れた。
「ラド、あなたが書きますか?」
「いえ、ご主人様にお願いします」
自分にはもう、何も書く中身はないとラドヤードは思った。
以前の、A級冒険者だった自分の名は……捨てた。
それに伴い生まれ故郷も何もかもを自ら捨てる事により、この小さな主人にもらった名ラドヤードとして、これから生きていく覚悟を決めたのだ。
「名前しか書く事がありませんわ」
「この場合はそれで結構です。
そうですね、私の方で少々書き加えてもよいですか?」
ジェラルディンが頷くのを見て、受付の日付けとその横に奴隷の印を入れた。
「戦闘のタイプは剣士のようですね」
今はジェラルディンの座る椅子の後ろに立てかけてある長剣を見て、それも書き入れる。
「これで明日にはカードを渡せると思います」
部屋に備え付けられているベルを鳴らすとすぐに職員がやって来て、書類を受け取り出ていく。
「さてルディンさん、ポーションの件ですが、今日は納品は……」
「ごめんなさい。
昨日は色々あって調薬してないのです」
見るからにがっかりした様子のアララートを見て、少しだけかわいそうになったジェラルディンはアイテムバッグから瓶を数本取り出した。
「これは効能がバラバラで、もちろん先日お渡ししたものより良質なものなのですが、いかがですか?」
「よろしいのですか?
こちらも鑑定してのちになりますので、お支払いは後日となりますが」
「それで結構です。
それとですね、私、ダンジョンに行ってみたいのですが」
この爆弾発言に、アララートだけでなくラドヤードも目を瞬いた。
「主人様、それは……」




