46『喜びと戸惑い』
ラドヤードの中では、あの悪夢の日からの事がグルグルと渦巻いていた。
そして、この奇跡。
「主人様、あなたは一体」
「私は調薬も学んでいるの。
だから商会であなたを見たとき、隻腕でも問題なかったの。
……さあ、泣き止んで」
ラドヤードとしても、これほど泣いたのはいつ以来だったろう。
再生されたばかりの左手で涙を拭って、その感触にまた感激し喜びを噛み締める。
「あなたの事を知る人は、この町にはどのくらいいるのかしら。
確か遠国から連れて来られたと聞いているけど」
「……奴隷商と今日行った商店の者くらいだと思います」
街中を歩いていた時は外套を着ていたので人目に触れていない。
「ラドは冒険者だったのよね?
奴隷になって、そちらの方はどうなっているのかしら」
「おそらく、奴隷落ちした時点で抹消されていると思います」
「それって、再登録出来るのかしらね」
ラドヤードも正確な知識を持っていないようだ。これは直接聞いてみるしかなさそうだ。
「えっと、それから……
そう、冒険者と言えば武器と防具ですね。防具は防具屋に行くしかないけど、当座の武器なら何とかなるかもしれないわ。
ラドの武器は何だったの?」
「俺、いや私は大剣を使っていました」
「うふふ、堅苦しいから “ 俺 ”でよくてよ?
それと、大剣ならいくつか持っていたはずだわ」
ジェラルディンの収納には、最早慣れっこになりつつあるラドヤードだが、このあと取り出された大剣の数々には度肝を抜かれた。
「主人様? これは一体……」
「盗賊団のアジトを襲った時に頂いたものよ。どうかしら?」
見るからに粗末なものから宝飾品と言うべきものまで、あらゆる大剣が並べられていく。中には身の丈ほどもあるバスターソードもある。
ラドヤードはその剣を一目見て、魅入られたように手に取った。
「それが気に入った?
この剣ならラドの体格にも合いそうね」
この剣は最初に討伐した盗賊団の、アジトの洞窟から頂いたものだ。
あそこは結構な量の強奪品を溜め込んでいた。
「それがいいならラドにあげるわ。
あと短剣とかタガーはどう?
セカンドウェポンの大剣も必要ではなくて?」
あまりにも気前のいい主人に、ラドヤードは困ったように眉尻を下げた。
「主人様、そんなにもらっても装備する事が出来ません」
「あら、心配ないわよ?
ちゃんとラド用に、ベルトに装着出来るサイズのアイテムバッグを用意してあるわ」
一度懐に入れたものはそのものが裏切らない限り、全力でフォローするジェラルディンである。
すでに自分のものよりも一回り大きいウェストポーチを選んであった。
「今日はまず防具屋に行ってラドの鎧をオーダーしましょう。
そのあとは……冒険者ギルドかしら」
あまりにも目まぐるしくてついていけない。
ラドヤードは自分の半分ほどの年の、小さな少女な主人に振り回されっぱなしだ。
今出て来た防具屋では、突然貴重な古竜種の皮を出して店主をびっくりさせていた。
「主人様、あの皮はどうなさったのですか?」
「あれは家にあったものよ?
先代か先々代の頃に献上されたものではないかしら」
それを聞いてホッとするラドヤードがいる。
もし竜殺しもするような化け物ならという怖気を振り払う。
「さて、冒険者ギルドに着いたわよ」




