43『奴隷のための生活準備』
次の皮革店では足のサイズを測り、足型を取って、ラドヤードの靴を注文した。
「この皮で作って欲しいのです」
ジェラルディンが取り出したのは、侯爵邸にいるときから収集していた【地龍】の皮だ。この地域では滅多に見ない皮に職人を兼ねる店主は目を輝かせている。
そして普段履きの靴と冒険者用の靴を2足注文し、普段履きは超特急で急いでもらって、明日の夕方には引き渡しが出来るそうだ。
ついでにベルトも購入して、手付け金として金貨30枚を渡す。
この後ジェラルディンは、また丁稚の案内で百貨店に向かったのだった。
百貨店と言うだけあって、その建物は王都でも滅多に見ない規模の大きさだった。
「ようこそいらっしゃいました」
飛び込んでいった丁稚が、ジェラルディンが店の敷居を跨ぐ前に案内係を連れてきた。
「まずは彼が使うベッドと寝具が欲しいのです。
あと、諸々の雑貨と……他にどんなものがいるかしら?」
自分の身の回りならわかるが、男性用など想像もつかない。
小首を傾げたジェラルディンに助け舟を出したのは、呼び出されてきた店主だった。
「お嬢様、当店にお越しいただき、誠にありがとうございます。
もし、お困りでしたら私奴がご助力させていただきます」
「助かりますわ。
実は彼のものを一から用意していますの。
とりあえずの服と、それから靴をオーダーしてきましたの。
今ベッドと寝具をお願いしていたのですが、あとは私にはさっぱりわからないのです」
「わかりました。
ちなみにお部屋の広さはどの位でしょうか?」
ジェラルディンは不動産屋から聞いたそのままを伝え、店主はラドヤードの方をチラッと見た。
「ベッドと寝具の他にテーブルと椅子をご用意しましょう。
雑貨の方もお任せ下さい」
これが富裕層の買い物だ。
ジェラルディンは応接室に案内されて紅茶でもてなされ、ラドヤードはその後ろに立っていた。
「失礼ですが、お嬢様はこの町は初めてですか?」
「ええ、旅の途中なのですが厳冬期になったので冬を越す為に腰を落ち着けたのです。
それで……借家を借りる事になったのですが色々あって、護衛に奴隷を買う事になったのですよ」
店主はジェラルディンを見て、トラブルの中身を察した。
「それは……大変でしたね。
では、準備が出来たようです。
売り場の方にお願い出来ますか?」
音もなく部屋に入ってきた店員を見て、店主はそう言って立ち上がった。
百貨店で買い物が済んだ後、ラドヤードは主人の後ろを歩いていた。
「ここからは少し歩くのよ」
主人となった少女は笑みを浮かべて、そう言った。
何から何まで規格外の少女は奴隷商会を出たあと過度と言えるほどラドヤードの身の回りのものを調えてくれた。
そしてその買ったものをすべてアイテムバッグに収納して、今は家に向かっている。
「借りた時は同居人が増えるとは思っていなかったので少し手狭なの。
あなたは1階で暮らしてもらうわ。
ただ、元は店舗だったみたいで使いづらいかもしれない」
裏通りの商店街の一画にあるその家は、確かにこじんまりとした造りだったが、すでに窓にはカーテンなどがつけられており、女性の住む家といった佇まいを感じさせられる。
「さあ、入って」
入ってすぐの魔導ランプに明かりが灯る。
照らされた明かりに浮き上がった部屋、何もない20㎡は広く感じる。
「ここをあなたの部屋にするわ。
玄関を入ってすぐで落ち着かないかもしれないけど、ここで我慢してね」
「とんでもない、お部屋をいただけるなんて感謝しています」
「あのね、確かに私はあなたを買ったけど、生活に関しては普通にしてくれればいいの。
ただ、私はこんな見かけだから、外では護衛をして欲しいのよ」
「存じています。
このラドヤード、誠心誠意努めさせていただきます」
「う〜ん、硬いわね。
……まあ、これもしょうがないかしら」




