42『プリタ洋品店』
「まずはラドの服を買いに行きましょう」
「私にはこれが」
ラドヤードは、奴隷商会を出るときに与えられた服を見下ろした。
「そんなの最低限でしょう?
もっとちゃんとした、暖かい服を買いましょう。
着替えも必要だし、下着だっているじゃないの」
ジェラルディンは商会の店員に聞いた男性用の服を扱っている店に向かっている。
ラドヤードは何と言っても身体が大きいので、そのサイズの服を扱っている店は限られていると言う。
「まずは服を上下でしょう?靴も必要ね」
ラドヤードは、今はサンダルを履いている。
「私の護衛なのですもの。
遠慮は無用よ」
「はい」
教えてもらった洋品店は、ジェラルディンの家のように裏通りにある。
そこは冒険者も買い物に来るサイズも豊富な店だ。
「いらっしゃいませ」
膨よかな中年の女性が、朗らかな笑みとともに出迎えてくれる。
この世界、服というものは普通高価で、一般市民は古着が多い。
既製服は値段が格段に上がり、富裕層や貴族は基本、オーダーメイドだ。
「こちらなら彼のサイズもあると聞いて来たのですが」
「ありがとうございます。
たしかに当方はサイズを豊富に取り揃えております。
今日はどのようなものをお探しでしょうか」
女性は抜け目なくラドの首輪を目にし、次にジェラルディンの着衣に視線を移した。
ジェラルディンの着ている服は見た目は普通の町娘に見えるが、プロの目はごまかせない。
防寒のためのローブは一見布製に見えるが、強力な魔獣の跋扈する森の奥に生息する、ある魔獣の皮をなめしたものをさらに加工した、このあたりでは滅多に見ない代物だ。
中に着ているワンピースもシルクウールのモスリンを重ねたもの。
足首から下が見えているブーツはおそらく竜種の革製だろう。
「まずは下着を何組か、シャツやズボンも何枚か欲しいわ。
上着や外套などもあればお願い。
おそらく彼のサイズの商品は限られているだろうから、あるだけ出してちょうだい」
「主人様……」
「ダメよ、ラド。
ちゃんと全部揃えるの。
使用人の面倒を見るのは主人の務めよ」
女性は奥から店主である男性を応援に呼び、一人はラドのサイズを測り、もう一人は目算で下着を選んでいた。
「さあラド、これから試着していきますよ」
ただでさえ高価な既製服。
そして冒険者御用達のこの店には色々な用途の服がある。
「まずは家で着る普段着ね。
それから外出着に鎧下……」
完全に貴族の考え方である。
庶民はそれほど用途に応じて着替えなどしない。
「靴も欲しいのですがどこか良いお店をご存知ないかしら」
「当方の系列店に皮革製品を扱っている店がございます。
誂えも致しておりますので、よろしければご案内致しますが」
「まあ、ぜひお願い致しますわ。
あと、雑貨や家具なども要り用なの」
「誠に厚かましいのですが、当店の本家が百貨店を営んでおりまして、そこでならある程度のものは揃うかと思います」
「そちらも。紹介して下さいな」
ジェラルディンは買い物が大好きである。
侯爵家では邸に商人を呼びつけて買っていたのだが、この店頭で選ぶシステムも中々楽しい。
結局ジェラルディンはこのプリタ洋品店で家着を2組、普段着を2組、鎧下に着るシャツを2着、外出用の外套と、そして下着を買った。
しめて金貨53枚。
滅多にない、大口顧客である。
「お買い上げありがとうございました」
店主夫婦に見送られ、丁稚の少年の案内で次の皮革店に向かった。




