36『住居の引き渡し』
ジェラルディンの周りにはいなかったが、もちろんこの国には奴隷制度がある。
大きく分けて犯罪奴隷と借金奴隷があり、犯罪奴隷とは重罪を犯したものが鉱山などで生涯無給で働かされる奴隷で、借金奴隷とは借金を返せないものが自身を売り、期限を切って奴隷になる場合を言う。
ジェラルディンに勧められているのは借金奴隷の方である。
「聞きましたよ。
ルディンさんは昨日、ゴロツキに襲われたり冒険者に絡まれたりしたそうですね。
私は、やはりあなたのような女性がひとりでおられると、そういう厄介な連中を集めることになると思うのですよ。
だから常に護衛をそばに置けば、少なくとも昨日のように絡まれることは無くなると思うのです」
「なるほど……護衛に奴隷をねえ」
ジェラルディンは考える。
他人を懐に入れるのは色々制約が出来て鬱陶しいが、少なくとも隷属契約を結ぶ奴隷なら、ジェラルディンの秘密が漏れることはない。
それに、ここで奴隷を持つのを拒んだら、このアララートが今以上に干渉してくるかもしれない。
「わかりました。
前向きに考えてみますわ。
奴隷を買う場合はどこか良い奴隷商を紹介していただけますか」
「もちろんギルドと付き合いのある商会をご紹介します」
そんな遣り取りをしながら、新しい住居に着いたジェラルディンたちは、ちょうどやって来たガルファンと出会った。
「ルディン嬢。
室内のクリーニングは終了しました。
こちらの鍵をお渡しします」
鍵は合鍵を含めて2つ。
ジェラルディンはそれを受け取って、これから3ヶ月間自分の住処となる住居に足を踏み入れた。
「ではルディンさん、私はギルドに戻りますので。
えっと、明日はどうします?」
「そうですね……
こちらの用が済んだらギルドに伺わせていただきますわ。
おそらく午後になると思いますが、よろしいですか?」
「はい、お待ちしています」
アララートが出て行くとジェラルディンはドアに鍵をかけ、一階の四隅に結界石を置いていく。
そしてドアの蝶番のある方に一個置き、開閉部にも一個置いた。
「これで結界を解かない限り、誰も入って来れないわね。
さてと、あとはゆっくりと部屋を調えていきましょう」
ザッと見たところ掃除は完璧なようだが、ジェラルディンは念を入れて【洗浄】の魔法をかけた。
「暖炉もお掃除して薪までサービスしてくれたけど、私暖炉は使わないのよね」
今は厳冬期、そしてもう日が暮れつつある。
日が照っていた時は多少暖かかったが、今はもうずいぶんと冷え込んできている。
ジェラルディンは階段を上がりドアを開けるとまずは魔導ランプを取り出した。
ひとつ、ふたつ、みっつ……
魔導具はそれなりに高価なので、魔導ランプなど一般家庭では一部屋に一個あれば良い方だ。
それをジェラルディンはキッチンのカウンターに並べていった。
「次は暖房ね」
LDKの暖炉の前に魔導ストーブを出し点火する。次は黄緑色の絨毯を出して床に広げた。
「やっぱり明るい色が良いわね。
ダイニングのセットはシンプルなものがいいかしら」
キッチンカウンターの側に魔樹製の4人用テーブルを、椅子は2脚出した。
「リビングコーナーにはカップボードとソファーを、ソファーはクリーム色がいいわね」
異空間収納からポンポンと出されていく、家具の数々。
全体的にLDKはシンプルにまとめるようだ。
「とりあえず、最低限必要なものだけ調えて、今日はもう戻りましょうか」
ジェラルディンは影空間の隠れ家に戻りくつろぐ事にする。
「奴隷ね……」
居るだけでゴロツキなどが寄ってこない、屈強な奴隷などいるのだろうか?
ジェラルディンはバスバブルの泡に沈みながら、考えに耽っていた。




